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Ch.2

翌日、水曜日。 雲が目立つ空模様だったが、青空は高く澄んでいた。 『HILLOCK』の営業は、11時から。 午前をゆっくり過ごした僕は、昼前に自転車で『HILLOCK』に向かった。あの店まで、ホテルから自転車で15分弱、歩けば40分かかる。楽しみな再訪に胸ははやり、ペダルを漕ぐ足も弾んだ。 ランチタイムの店は、ほぼ満席だった。昼時の客の回転は早く、慌ただしいが、それでも店内は穏やかな静けさに満ちている。 はなから長居を決めていた僕は、アイスコーヒーを頼んでカウンター席でPCを開き、ついに原稿の執筆に着手した。そして、ランチタイムが落ち着いた頃に窓際のテーブル席に移らせてもらい、ランチを頼んだ。今日も残念ながら、テラス席には先客がいた。 日替わりサンドイッチのセット(ランチョンミートのサンドとポーチドエッグ、サラダ)を食べ終えた後は、しばらくの間、店内を観察した。 客達の顔ぶれは、老若男女さまざま。テラスに居座るのは、ビーグルを連れた老夫婦、それとマダムの3人組。テーブル席には、仕事をさぼっている営業マン、勉強をしている学生の2人組、若い主婦らしき2人組、それと、新聞を睨んでは何かを書き込んでいる50代くらいの男性がいた。競馬の予想か、クロスワードでもしているんだろう。 半分は昨日も見かけた顔で、長居をする者もいれば、コーヒー1杯で帰っていく者もいる。そして、昨日もそうだったように、客は途切れず入れ代わり立ち代わりやってくる。気軽に立ち寄れるような場所でもないのにわざわざ丘を登って来るのだから、常連は皆、僕のように『HILLOCK』が好きで来ているに違いない。 今日のアルバイトらしき店員はブロンド髪の若い男性で、彼もこの辺りの学生だろう。昨日の女性の姿がないところを見ると、店主の彼一人、バイト一人で店を回しているらしい。 作家という仕事柄、つい人間観察をしてしまうのだが、実のところ、最も気になるのは店主だった。しかし、昨日と同様、彼はランチの後に何度かホールに顔を出しただけで、ほとんど見ることができていなかった。 別に、彼に何か用があるわけではなかったが、ただ、昨日の笑顔を遠目にでも、一度か二度でも見ることができたらと、密かに楽しみにしていたのだ。

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