11 / 32

Ch.6

翌日の金曜。 昼過ぎまで宿でごろごろして、『HILLOCK』にはお茶の時間の頃に行った。 オーダーを取りに来た男性店員が「こんにちは、ノーマンさん」と挨拶をくれ、「ランチメニュー、まだ出せますよ」と教えてくれた。 「ノーマンでいいよ」と言い、彼の名前を聞いて(ティムだそう)、実質ブレックファストのソーセージと目玉焼きのセットを頼んだ。 いつの間にか、僕の名前は店主の彼によって共有されていたらしいが、連日これだけ入り浸っていたらバックヤードで話題にされていても不思議はない。アルバイトの彼らはともかく、店主は僕のことをどんなふうに話しているのかはとても気になる。 すると、ランチを持ってきたティムが「13時になっても来ないからウィルが心配してましたよ」と教えてくれ、単純にも幸せな気持ちになった。 いつものように、閉店間近の会計時。 店主は、僕の顔を見るなり《何かあった?》とメモを突き出した。 その心配そうな顔を見れば、また、じんわり幸せを噛み締めてしまったが、真顔を繕った。 「大丈夫、宿でゆっくりしてただけ…」 『ならよかった』 ホッとしたのか、途端に太陽みたいにニコニコした人が眩しい。 「休めって言ったのは貴方なのに」 『そうだけど』と苦笑する彼がいじらしくて、つい、甘えたくなる。 「…昨日は、僕の話ばっかりしちゃってた」 『楽しかった』と笑った彼は、さらさらとペンを走らせた。 対面では、スマホよりメモがいいらしい。確かに、こちらも書く所が見えて、やり取りが早かった。 《あんなに、誰かといっぱい話したのは久しぶり》と書き終えた彼が、メモをこちらに見せる前に言った。 「貴方は、アルコールは平気?」 突然の質問にぽかんとした彼は、『むしろ好き』とニッコリ笑った。 「じゃあ、よかったら飲みに行かない?…貴方の都合がいい時に…」 『えっ』と驚いて、『いいけど』と小さく動いた唇に、躊躇(ためら)いが見えた気がした。 「あぁ!別に無理に誘う気はないから、遠慮なく断ってーーー」 『じゃあ、明日』 「明日!?」 『明日』と繰り返して、彼は小さく笑った。 明日は土曜。店の営業は15時までの、早じまいの日だった。 「ここをクローズした後?」 《クローズ後は買い出しに行くから、その後で》とメモ。 「そっか、じゃあ…貴方は、どこがいいかな?」 少し考えて、彼は《たまに行くパブとか》と書いた。 「そうしよう、貴方が好きなとこに」 小さく頷いた彼に、「気が乗らなかったら、ドタキャンでもいいから」と言うと、 少し怒った顔をしてみせた彼は、《そんなことしない!》と書いた。

ともだちにシェアしよう!