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翌朝。目が覚めたのは、昼前だった。 慌てて起きると、側のテーブルに《風呂は好きに使って、朝食は店に来て》と書き置きがあった。 起こしてくれればいいのにと思いかけて、僕を起こさないよう静かに支度をした彼を想像すると、愛おしさが募(つの)った。 シャワーを浴びて13時過ぎに店に降りると、僕に気づいたリンが僕を二度見した。 なるほど顔の彼女にソーセージとスクランブルエッグのセットとコーヒーを頼むと、出てきたのはマッシュルームとビーンズにトーストまでついた、十分なブレックファストだった。 リンに「彼とは何もないよ、嵐で帰れなくなって泊めてもらっただけ」と言うと、彼女は「勝手に弁解されたらかえって勘繰りますよ」と肩をすくめた。 「じゃ、ついでに聞いていいかな…?」 「何か?」 「彼…ウィルさんって今、誰か…いる?」 「誰かって?」 「彼女とか彼氏とか、そういう人…」 今更そんなことを聞くのかか、自分で聞けのどちらかはわからないが、彼女は呆れて僕を見た。 「そーですね、ついさっき、彼ピができたのかと思ったけど違ったみたい」 「…そぉ、ありがとう」 「どういたしまして」と笑った彼女に前もって3時のお茶を頼んで、今日はできるだけ放っておいてくれるよう頼んだ。 閉店の30分前。なんとか形にした原稿をメールで送り終えると、すっかりくたくただった。 会計時。店主に泊めてもらった礼を伝え、仕事が済んだことを報告すると、彼は自分のことみたいに喜んでくれた。それから、酒を飲んでいけと誘ってくれたが、昨夜から世話になりっぱなしなので丁重に遠慮した。 そしてこの日は、宿に帰ってそのまま爆睡した。 翌日の土曜は休みのつもりで午前はゆっくり過ごし、『HILLOCK』で遅いランチを食べた。 その後、街に出て店主への礼に上等なワイン2本とグリム童話に出てきそうな店のドーナツを1ダース買い、パブで飲んでから宿に帰った。

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