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泣き疲れたウィルを抱いて床に横になった後、僕らは、眠ってしまったらしかった。
ビービーと忙しない呼び鈴の音で目を覚ますと、19時を過ぎていた。
体を起こした時、ドアが開いて、「ウィル?いますか?」と騒々しく入ってきたのは、アルバイトのティムだった。
「…ちょ、えっ?ノーマン??え?ウィルは大丈夫ですか!?」
まだ床に寝転んでいるウィルは、ティムの声が聞こえた時に、寝返りを打ってこちらに背を向けていた。泣き腫らした顔を見られたくないんだろう。
「あぁ、大丈夫…全然大丈夫に見えないかもしれないけど安心して、何も問題ないから…」
起きる気配がないウィルを見て、ティムは僕を怪しんだ。その様子から察するに、彼はウィルと僕の関係を知らないらしい。
ウィルにとって、僕がどんなつもりであっても、たった1日半ほど愛し合っただけの遠恋の相手は、あえて周りにべらべら喋るようなことじゃなかったというのは、今はよくわかる。
「…そう言われても、ウィルに何したんすか!?」
「実は、僕らは付き合っててーーー」
「えっ、そうだったんすか…」
「その…さっきまで“愛し合ってた”から、ウィルは乱れたところを見られたくないんだ…察してくれると嬉しい…」
「ここで!?」
派手に驚いたティムは、僕に険しい目を向けた。
細かい説明が面倒でアバウトに誤魔化してみたが、かえって不審に思われたらしい。この状況では、僕が乱暴を働いたと思われても仕方ない。
「ウィル?無事なら手ぇ上げてくれます?」
ティムの問いかけにウィルが手を振り上げて、それでなんとか、僕に対する嫌疑は晴れたらしかった。
「…それでティム、どうしてここに?」
「あぁ!鍵なくしちゃって…店にないか聞こうと思ってウィルに連絡してもレスがないから、心配になって見に来たんですよ…鍵も探したいし…」
僕らが寝ている間に連絡していたのだろう。ウィルのスマホは床に置いてあったが、通知の振動設定をしていないのか、気づけなかった。
そして、バックヤードで鍵を見つけたティムに僕も安心したが、ウィルはまだ床に臥せっていた。
「…もしかして、邪魔しちゃいました?」
ようやく察したティムは、そそくさとエントランスに向かってくれて、申し訳ない。
本当なら、このままティムも誘って一緒に夕食を囲んだっていいものだが、そうしたい状況でもない。やむを得ず、本心ではウィルの心配をしてくれた礼のつもりだが、彼には「飯の足しにして」と30ポンドほど渡して、帰ってもらった。
「…そろそろ、ディナーにでも行かない?」
ウィルを覗くと、ようやく起き上がった彼は、ばつが悪そうに僕を見上げた。
文字通り泣き腫らして、すっかりくたびれた彼は、とてもこれから出かけられるような顔じゃなかったが、それでも一層、愛おしかった。
「…出前かウーバーでも頼もうか?」
額に口付けて、乾いた涙でカサカサしてる頬に触れると、彼は小さく言った。
『ごめん』
「…何が?」
首を横に振ったウィルは、また、彼の書いた看板を消して、《風呂入って》《夕食作る》と書いた。
消えてしまった《 っ て 、 言 え た ら い い の に 》が、惜しかった。
それは、紛れもなく、彼のそれ以上ない『愛してる』だった。
それから、ウィルに先に上階に行ってもらい、風呂の前に2枚の看板を完成させた。花の絵の横のSMILEを勝手にBEST SMILEにしたが、彼は文句を言わないだろうと思う。
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