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甘くスパイシーなドラッグと、高い酒の芳しい香りの中に、落としきれない血の臭いがしていた。 ビリビリと舌が痺れるような気がするのは、大麻か酒の味か、それとも乱暴に貪り合う舌のせいかはわからない。ザラザラと吸い付く舌は心地よく、我を忘れて舌の腹を擦り合わせているうちに、俺の腿にまたがって脚で腰にしがみつく男に、上半身を脱がされていた。 見慣れたヴェルサーチのローブをはだけて肩から落とすと、白い体が露わになる。飽きるほど目に焼き付いているはずの体は、いざとなれば、不思議と初めて見るようで、知ってみたいという強烈な欲求に駆られていた。 まばらな体毛が覆う胸は見るからに柔く、淡桃の乳首にはリングのピアスがぶら下がっている。 少し俯いて、「触って」と上目で笑う男に、試されていると思う。 「男の経験はない」 「さっきしたじゃん」 俺の右手を取ったネロは、強引に胸の真ん中に押しつけた。 体毛は不快だが、男の肌は滑らかで温かく、確かに昂ぶる鼓動が俺を急かしていた。 「どうしてピアスしてる」 「かわいいでしょ」 「邪魔だ」 「そんなことない」 そっと乳首へと導かれた指先が、柔らかな先端に触れた。 「優しくね」と言いながら、男は俺の指を強く擦りつけて甘い息をつく。 「舐めてよ」と乱暴に頭を抱えられた俺は、もう片方を口に含んだ。微かに甘い体臭に潜む血を嗅ぎながら、ピアスごと乳首を吸い、摘んだ指で捏ねてみる。俺の刺激で硬く尖り、紅く色づくそれは女よりも卑猥で、言いようのない昂奮を覚えた俺は、男をシーツに押し倒して夢中で齧りついていた。 ベッドに組み敷いたネロは、クスクスと俺を笑ったが、愛撫を強めると俺の髪を掴み、体を捩って甘い息を溢(こぼ)し始めた。 「ア、すっごいきもちい、あーさー…っ」 俺の背をべたべたと撫でる男と、いつまでも纏わりつく血の臭いが不快で、苛立ちに任せて乳首を噛んで、潰すつもりで抓(つね)った。 「ああ、アっ、いイっ、あーさーっ、きもちい、アっ…」 やかましく脚をばたつかせたネロは、自分のペニスをしごき始める。 「あア、あーさー、あーさーっ…」 返事代わりに両乳首のピアスを強く引っ張ってやると、ガクガクと腰を揺らしていたネロの体が強く硬直した。 「あ、あッ……」 体を起こした俺は、強く勃起していた。 ハァハァと喘ぎ、ぐったりと四肢を投げ出したネロは、息を飲むほどエロティックだった。紅潮した体はむっとする熱を帯びて、汚した胸が淫らに光る。小刻みに跳ねるペニスは先走りこそ垂らしているが、果ててはいない。 「イッたのか?」 「…んン」 「出てない」 「…ここ、だよ」 へそと股間の中間辺りをさすった男は、熱に浮かされたような目を細めた。そして、ペニスへなぞり下ろした指で亀頭を捏ねながら、舌足らずにねだった。 「ねぇ…おちんちん、なめてよ」 「…」 どうして男のモノなんか。 そう思っても、下を脱げば腹立たしいほど屹立している俺は、嬉しそうに腰をくねせるネロに覆いかぶさった。 シックスナインの姿勢をとったのは、やるからにはネロにも同じことをさせたいと思ったからだ。この1年、彼の奉仕を見続けて、その味を知ったばかりの俺は、一旦コトに及んでしまえば、まだどこかで彼を娼夫として見なしたがっていた。 喜んで俺に食らいつくネロの腿を抱え、尻の穴まで丸見えの股間に顔を覗けば、ツンとしたオスの臭いが鼻についた。腹を括って男のモノを咥えると、想定外に暴れる肉棒は厄介で、見様見真似でしゃぶっているうちに口の奥で射精された。しょっぱく生臭い精液はとても飲む気にならず、咥えたままのペニスに吐き出した。それでも、俺をしゃぶって「もっと」と促す男のそれを、がむしゃらに吸い続けている。 男がくぐもる呻きを漏らすたびに目の前でタマが揺れ、どうしてこんなことをと正気に返る前に、ペニスを啜られる快感に飲まれてしまう。 「ねぇ、おしり、きもちくしてよ…」 アヌスをひくつかせながら、男が甘ったるく乞う。 なるべく目を背けていたそこは今夜の情事で既に弛んで、鮮やかな肉色の内が僅かに見えていた。 「…指を挿れたことはない」 「…コレで、いいから」 ネロはサイドチェストから黒いディルドを取り出すと、俺の手元に放った。 俺のモノほどの太さの張形の竿には、卑猥なイボ状の突起が螺旋状に並んでいる。これで自慰に耽る男を想像すれば、どす黒い劣情が沸き起こった。 「…」 「はやく…いいとしして、びびってんの?」 クスクスと嘲笑(わら)う声が癪に障る。顧客だとしても、舐められるわけにはいかない。ならばと遠慮なく玩具をアヌスにあてがい、力を込めて一気に突き挿れると、ネロは猫のような叫び声を上げて射精した。 「……よかったか?」 顔面にもろに浴びた精液が目に染みる。どうしてこんな目にとうんざりしながら、男が答える前にその口に俺を捩じ込んで、ぶるぶると震える尻に埋まった玩具の抜き差しを始めてやる。 「ん、ん、ん、ん…」 グロテスクなディルドを飲み込むアヌスを眺めながら、下品な凹凸が男の中をゴリゴリと擦る感触を感じている。 玩具を引けば男は体を震わせ、深く沈めきれば喉で呻き、大きく掻き回せば喉を震わせて俺を吸った。 舌先で転がす男のモノはすぐにまた膨れて、玩具を掻き回せばダラダラと先走りが溢(こぼ)れ出す。 尻から匂い立つ刺激的で香ばしいような臭いと、濃い精液を嗅ぎながら、俺は、玩具のピストンに没頭している。 ゲイではない、娼夫ではないと言いながら、この1年、ふしだらに開発された男のカラダに、次は俺を仕込んでやろうという下卑た欲望を覚えた俺も、狂っていると思う。 「…んん゛…ん…う゛…ん゛うッ…!!」 抱えた腰ががくんと跳ねて、玩具を咥えた尻が強く締まる。大きく跳ねて俺の頬を叩(はた)いたペニスは既に精液が尽きていて、悩ましく脈打っても僅かな体液を垂らすだけだった。 「ねえ、ねぇ…も、お、もお、あーさーの、いれてよぉ…」 俺のペニスを舐め回しながら、女々しい声で懇願するネロは、やはり根っからの娼夫だと思う。 「…お前の好きな体位でしてやる」 涙目でねっとりと喘ぐ男は、ぞっとするほど淫靡に笑った。そして四つん這いになると、尻からずるりとディルドが抜け落ちて、ひくひくと蠢くアヌスを突き出したネロは、焦れた声で「はやく」と命じた。 「あアっ、あ、すごいイっ、アッ、ああ゛、あっ、はッ…」 ばちばちと腰がぶつかる音と、それをかき消すほどの嬌声が響き続けている。 悲鳴じみた声がやかましく、男の尻たぶを打(ぶ)ってやると、弾かれたように天を仰いだネロは、ますます淫らな声を上げた。 「アッ、あーさーッ、あーさーのおちんちんっ、こすれ、るッ、そこ、いいッ…」 1秒1秒、覚えのない声と姿で乱れていく男の中は、先程に増して熱く弛んで、力任せに抉る俺をなだめるように絡みついている。 知っているはずの情夫より艶めかしく、強烈に情欲をそそるこの男がネロの本当なのか、それとも別の演じる何かなのかはわからない。 「いイ、あ、ゴリゴリしてる、そお、そこっ、もっとゴリゴリ、ついてっ…」 緩急と強弱をつけて腰を振り、思うがままに快感を貪るネロは、うっとりと笑いながら俺を煽る。 大きくしなる背からいやらしく回す腰に流れ落ちる汗を、体で感じたいと思う。 無理矢理に起こした男の腰を抱いて、抱えた体が浮くほど腰を突いた。汗が繋ぐ体は熱く、張り付く肌は心地よく、強く擦れる粘膜はぐずぐずと俺をしごき始める。 「…これはどうだ?」 耳の穴まで舐ってやると、ネロは俺の髪を掴んでもがき、無様にペニスを振り乱して悶えた。 女のような撫で肩に噛み付いて、重力で滑り落ちる男を貫きながら掻き回すカラダは、どろどろに熟れて滑(ぬめ)り 、まるで生き物のように俺を吸う。 「…は、ア、あーさーぁ、のッ、かたいの、とどくぅ…かたいよお、あ゛、そこ、そこそこっ…ああ゛、きもち、いッ…」 濡れた肌を撫で上げて両乳首のピアスを引っ張ってやると、俺を咥える肉がぎちぎちと収縮した。 「ッア゛!?」 「これが、好きだろっ…」 ピアスを引くたびに腰が跳ねて、締まる尻を力ずくで刳(えぐ)っているうちに、繋がるそこからねばつく体液が垂れ始めた。 「あ、あア、ああ゛、ン゛、あ、すごいッ、きもちイ゛っ…!」 「ネロ、お前はただの、卑しい娼夫だ…」 肉が千切れるほど引いたピアスを捻(ねじ)りながら、男のモノを強くしごいてやる。 「だめっ…あ゛あ゛ッ、だ…あーさーっ、のびちゃうっ、あ、こわれるっ…」 ネロがのたうつほど深く交わる体の奥で、俺の刺激で確かに極まっていく男を感じながら、俺も満たされていく。 「ネロ、勝手にいくなっ…」 「あ、も゛、いくっ、そこぉ、ア゛っ…あーさーっ…もっ…あ゛っ、めくってっ、ああ゛もお、ア゛、もっとーーー」 男の髪を掴んで、こちらに向かせた顔を覗く。 涙を流してよがる男の蕩けた瞳が、甘く喘ぐ舌が、だらしなく開いた唇が俺を呼んでいた。 「ネロ、お前の欲しいモノをやる…」 口を塞いで息を奪い、強く突き上げながら射精する。 「…ん゛ん゛っーーー!」 抱えた体が激しく硬直して、握り込んだペニスが空しく痙攣する。 がくがくと跳ねる腰に搾り取られる快感に囚われた俺は、いき果てたネロが崩れ落ちるまで、まるで彼に溶けていくような悍(おぞ)ましい恍惚を味わっていた。

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