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失神したネロを放置して、床に散乱した服から銃を取った俺は、裸のまま部屋を出た。自室に戻って銃にサイレンサーを装着し、時計を見ると午前4時をまわっていた。
このマンションの住人は、シーザーと俺達を除いて常駐の部下が5人。幹部でなくとも、皆、シーザーから目をかけられている者達だ。彼らの部屋に行き、5分かけずに全員始末した足で浴室に向かった。
朝の脅威をゼロにしてようやく緊張を解いた俺は、しばらく目を閉じてシャワーに打たれていた。頭を空にしたくても、脳裏には知ったばかりの体がチラついて、股間が疼いた。
時間をかけて手についた血を落とし、汗とネロの体液を念入りに洗い流しても、男の精と淫臭が鼻にこびりついていた。
裸のままネロの部屋に戻ると、目を覚ましていた雇い主が俺に不満な一瞥をくれた。
「どこ行ってた?」
「仕事だ、それとシャワー」
「来てよ」と手を伸ばすネロを横目に服を拾い上げると、彼は「来いって」とシーツを叩いて駄々をこねた。
「なぜ」
「後戯してない」
「契約にない」
「当然込みだ」
諦めてベッドに入り、要求通り腕枕をしてやると、男は俺の左半身にぴったり体を寄せた。俺の胸に手を置いて脚に脚を絡めたりするのは、親密な者達の行為のはずだろう。昨日まで、シーザーとの情事の直後には部屋を出ていた男にも、こういった欲求があるのかと意外に思う。(部屋を追い出されていたと言った方が正しいが、それでも、甘えようと思えば甘えられたはずだ。)
「恋人としろ」
「1年ここにいたんだ、そんなのいない」
満足したのか、大人しくなったネロはふわふわと気怠く呟いた。
「さっさと作ってくれれば俺の仕事が減るーーー」
「髪撫でて」
俺の肩に頬を擦(なす)りつけて、男は甘ったるくねだる。
「…」
腕枕の手で乱れた巻き毛を梳いてやると、ネロは嬉しそうに体を擦り寄せた。
カーテンの向こうは薄明るくなり始めていて、時計は5時10分前を告げていた。
「寝た方がいいーーー」
「背中も撫でて」
俺の胸を撫で回していた指が、体毛を引っ張って遊び始める。
「…」
仕方なく体を男に向けて背中を撫でてやると、結局ネロと抱き合う形になった。
「さっさと恋人か愛人でも作れーーー」
「アンタ、ボディガードのくせに、もやしみたいにひょろひょろしてる…たよりな」
恍惚に浸っているのか、大麻のせいか、眠いだけか。ふにゃふにゃ笑って俺の胸に口づけた男の背は、とっくに冷めていた。
「不満なら契約解除しろ」
「アーサーのちんぽ、気に入った」
「…」
「でもセックスは下手、ガツガツしてるだけだし、もっと努力してよ」
「専門外って言ったーーー」
「でも、アンタ買ってよかった」
犬猫のように俺の首元に額を擦(なす)りつける男の顔は、見えない。
「ねぇ、手マン、覚えてよ」
「お前にマンコはない」
「ケツだよバカ」
「………」
「…」
それきり黙り込んだネロは、俺の肩を甘噛みしたり、乳首を舐めたり、背に爪を立てたりしながらふざけていたが、5分もしないうちに寝息を立て始めた。
ネロの背に回した腕を外し、腕枕だけ残して仰向けになる。神経は今だに高ぶっていて、俺に体を預ける男の重さと体温を感じているだけで目が冴えた。
到底眠れそうにない俺は、ネロが起きて戦闘の幕が開けるまで、目を閉じて心地のよい疲労を回復させていた。
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