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有言実行のネロは、優秀なビジネスマンだった。
当初の計画通り、主にダークネットを使ったヤクの密売や売春斡旋、賭博、闇金、詐欺、ポルノなどの新規“事業”を次々立ち上げたネロは、1年で売上を当初の20倍に伸ばし、彼の目指す“帝国”の基盤を揺るぎないものにした。
リアルでは業績不振のナイトクラブやスヌーカークラブを次々買い取り、今風にリニューアルしてデジタルの“本業”の受け皿や隠れ蓑を作る一方で、2年もすれば、飲食や衣料品、エンタメ、流通、貿易業のフロント企業を設立して表舞台に進出し、
飲食や衣料のチェーン展開をすることでロンドン外にも裏の“事業”を広げた。更には、慈善事業を行う基金(主にシングルマザーと身寄りのない子供の支援団体が多い)を立ち上げ、不動産などの投資事業も精力的に行い、3年もすれば“ウルヴス”はイングランドの1/3の街に拡大した。同時にその頃、ネロは銀行家などの金融マンや議員や著名人や芸能人の後ろ盾になり、4年もすればロンドンの社交界で“若き実業家”のネロを知らない者はいなくなった。
結局、ネロが優れているのは、ギャングでありながら血で血を洗うような旧来のやり方を好まないことだった。“事業”と“縄張り”を拡大する上で、他勢力との摩擦や抗争は当然避けられないが、ネロは基本的に合併や提携、買収といった表舞台の方法で解決した。もちろん、これまで通りの取引も大いにしたが、最悪、衝突が避けられなければ彼は冷酷無比に戦争に挑んだ。それでも、敵味方共に必要最低限の犠牲で収まるよう考え抜いていた彼は、思いやりや優しさゆえではなく、単にその先を見据えたリスクを最小限に抑える合理的な選択をしているだけに過ぎない。
この通り、実際、ネロが流血沙汰の抗争を起こすことは稀だったが、やるからには徹底的に敵を打ち倒す彼は、負けを知らなかった。(そもそも勝てない勝負には出ない。)
そして、いつの間にか、裏社会では冷酷無比な暴君として恐れられるようになっていたネロは、その“評判”が抑止力となって、ますます順調にビジネスを拡大していった。
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