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たじろぐ朔実に代わって、男が口を開く。
「話は一条から聞いてる。――俺の名前はエヴァン・スウィフト。これからよろしく、朔実」
にこっとあどけない笑みを浮かべたかと思うと、返事を待つことなくエヴァンは続けるのだった。
「そんなとこ突っ立ってないで、早く中に入りなよ。さっきはごめんね、追い返しちゃったりして……」
「ああ、そんな」
一変した申し訳なさそうな態度に、朔実はいやいやと首を横に振った。
一つの部屋を二人で共有するのだから、ああいうことがあってもまあ仕方ないだろう。今回に関しては、どうやら朔実が来ること自体失念してしまっていたらしいからなおさらだ。
「それじゃあ、お邪魔します」
ぺこりと頭を下げて、朔実は部屋の奥へと足を踏み入れた。
向かって左側のベッド沿いにトランクケースを置いて、背負っていたリュックを降ろす。
「あ、そうだこれ……」
いつの間にかベッドに腰掛けてこちらの様子を窺っていたエヴァンへと歩み寄り、手に持った紙袋を差し出した。
「実家の名物です。寮でルームシェアするって言ったら、おばあちゃんとおじいちゃんが菓子折りにって送ってくれて」
「カシオリ?」
くいと首を傾げて訊き返されて、ああそっかと朔実は注釈を加える。
「ええっと……要するに、お近づきの印っていうか……」
「オチカヅキノシルシ」
いまいちピンときていない様子に、これ以上何と説明すべきか「ううん……」と考えあぐねた。
「何が入ってる?」
端的に尋ねられて、朔実ははっと顔を上げる。確かに、菓子折りの意味を説明するより、中身を教えてあげるほうが手っ取り早そうだ。
「栗きんとん――昔からある日本のお菓子だよ。甘くて美味しいんだ。食べたことあるかな?」
尋ねると、「ない」とエヴァンは頭を横に振った。淡々とした返事だけれど、飾り気のない態度がある意味あどけなくもあって、可愛い反応だと朔実は思う。
田舎育ちなこともあってか、派手に見繕った『ザ・都会の若者』みたいな人にはどうしても壁を感じてしまうのだが、彼とは仲良くできそうだ。
「じゃあ、ぜひ食べてみてよ。気に入ってくれるといいな」
ふっと目元を和らげて、朔実は再度、紙袋を差し出した。
直後、思いがけずそれを押し返される。
「お菓子ならいらない。そんなもの食べたら、俺のこの完璧なスタイルが崩れちゃうでしょう?」
「へ」
ぱちぱちと目を瞬いて、朔実はちろと視線を下ろした。
――うわ、お臍の下に毛が生えてる……!
臍から下に向かって一直線に生えている薄いブラウンの毛は、俗にいうギャランドゥというやつだ。綺麗に整っているからか、無駄毛という印象は抱かなかった。
――ん? これは何だ……?
何やら臍の穴と、その少し上くらいの位置に銀色のちょぼが二つくっついていた。
どういう原理なんだろうと、朔実は首を傾げてじっと見つめる。ふいに、ふっと鼻を鳴らす音が耳を掠めて顔を上げた。
「あ、ごめんなさい。勝手にじろじろと……」
完璧なスタイルがどうとか言うので、ついまじまじと見入ってしまった。
エヴァンは気を悪くしたどころか、どこか得意げな笑みを浮かべて首を横に振る。くっと顎を上げて顔を近づけられて、朔実は目を瞬いた。
「カシオリなんてどうでもいいからさ……朔実、今から俺とセックスしようよ。俺の体、気に入ってくれたんでしょ?」
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