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第二章 穢した愛 1 ⭐

 ユリセスと別れてから、アドニスの心はずっと乱れていた。  寝ても覚めても、ユリセスの声と温もりが蘇ってくる。    それだけならまだよかった。    けれど胸はざわつき、身体の奥から、ふつふつと熱が湧いてくる――抑えられないほどに。    その度にアドニスは何か罪悪感にかられるようになった。  まるで、高貴なユリセスを汚してしまう気がして、考えるのを止める。    しかし、それも一瞬で、気づけば何をしていてもユリセスの残像が目の前に現れる。  そして、その夜――  アドニスは初めて自身を慰めた。    ユリセスの声。  温もり。  絡んだ指先の熱。    髪の毛一本まで想像して果てた。  滲んだ白濁が、掌にねっとりと残る。  アドニスはそれを見つめながら、後悔の波に呑まれた。  ――ユリセス様を汚してしまった……。  初めは罪悪感と後悔の念が渦巻くも、それは一瞬で、ユリセスを思い出して身体の中心が熱くなると、すでに手は自身を握っていた。  まるで発情した猿だ、と心で(ののし)っても――身体は止まらなかった。    欲望はエスカレートして、ついにはユリセスが自身を扱いてくれる妄想まで始めた。    耳元で残像のユリセスが(ささや)いている。  ――アドニス様、ここがいいのですか? 「あっ……そ、そうです……ユリセス様……っ」    ――その可愛らしい声をもっと聞かせてください……。 「ああっ……ユリセス様……ユリセス様ぁっ……!」    名前を呼ぶたびに、心がひび割れていく気がした。    ユリセスが声と共に優しく自身を握って慰めてくれる。  そう考えれば考えるほど、快感は増していく。    罪悪感なんて、とっくに溶けていた。  今のアドニスに残っているのは、ただ、快楽を求める本能だけだった。  ――ダメなのに……それ以上は……。    そして、禁忌(きんき)の蕾に手を伸ばし始める。  ――神様……どうか、お赦しを……。

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