19 / 66

第二章 穢した愛 6 ⭐

 ――免罪符……だって?  男の言葉の意味が理解できず、身体の芯がすっと冷えた。  破れた服の隙間から吹き込む風が、それを加速させていく――。   「本当は、俺の免罪符、欲しいよね?」 「……っ!」  腰に当てられた熱がじわじわと腹の中心へと伝ってくる。 「ここに、欲しいんだよね?」 「ううっ!」    男の鼻息が荒くなり、耳に掠れた声が響く。  男の凶器の熱がどんどん増していく。 「一人で必死に腰振ってた神官様が、本物欲しくないわけないよね? 俺のチンポ突っ込んであげるよ」    下卑(げび)た言葉遣いに、アドニスの全身がかっと熱くなる。    人格も言動もまるで別人なのに――声だけは、あまりにユリセスに似ていた。  耳元で囁かれるたび、あの人に責められているような錯覚に陥る。 「……そんなことをしても、免罪符は渡しません!」  一喝した。    けれど――男の声色が、ふっと低く落ちた。 「免罪符? ……そんなもん、欲しくないよ」  ――え……?  思考が、一瞬空白になる。  ――欲しくない? じゃあ、これは何のために……?  混乱しかけたその刹那。  男がくくっと喉を鳴らして笑った。   「俺はただ、免罪符というチンポをあげたいだけだよ」 「なっ……!」  必死にもがくが、縛られた両手は柱に巻き付けられていた。  体勢を変えようとした瞬間、臀部(でんぶ)を突き出すような格好になっているのに気づき、息が止まる。  思わず脚をすぼめようとするも、どうにもならない。  汗ばむ太腿の内側が、ぞくりと痺れた。  ――なに、この体勢……いや……ちがう、これは……。  心臓が破裂しそうなほど高鳴る。  けれど、それは恐怖だけじゃなかった。    ――僕は……何を期待しているの……?    必死に頭を振って邪念を振り払おうとするが、このあとの展開がどうしても頭に浮かんで離れない。    凶悪な肉棒に貫かれ、否応(いやおう)なく腰を揺らしてしまう自分の姿が……。  脳裏に焼きつくように浮かんでは、消えていく。   「ひっ……!」    氷のように冷たい男の手がアドニスの臀部に触れた。    ――ダメだ! こんな辱めを受けるのなら、舌を噛み切って死んで、この男を地獄に送ってやる!    せめて、男の顔だけは見てやろうと視線を必死に後ろに向けた。  月明りで彼の口元が見えた。そして――。   「あっ……!」    目元に布がかぶさり、きゅっと締め付けられた。  続いて口元も塞がれ、舌を噛むことさえできない。  闇に堕ちる準備は、すでに整っていた。

ともだちにシェアしよう!