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第二章 穢した愛 12 ⭐

「イッたね?」  耳元で囁かれた瞬間、アドニスの喉がひくりと震えた。 「……っ、違う……イッてない……!」  吐き捨てるように言っても、声が震えていた。  唇を噛みしめて首を振る。    恥辱にまみれた絶頂だけは、認めたくなかった。 「ふーん、じゃあもっと気持ちよくさせてあげるね?」    ――耐えなきゃ……。  アドニスは歯を食いしばった。  だが、本当の地獄は、ここからだった。  男は肉棒で一番の弱点をなぞり、アドニスが耐えきれなくなる瞬間を見計らって、容赦なく快感をぶつけてくる。  ――ダメっ……頭……とろける……とろけちゃうぅ……。 「あっ……あえっ……」  口から漏れる声すら、もはや自分のものじゃない気がして――。 「あへえぇっ……!」 「あれ? 神官様? 動物の真似でもしてるの?」    男の笑い声が聞こえる。    もう、それどころじゃなかった。  一番の弱点を攻め続けられたら、すぐに堕ちてしまう。    腰をよじる。  逃げたい。  だが男の手が、がっちりと腰を押さえつけていた。  ずん、ずんと打ち込まれるたびに、背筋が跳ねる。  歯を食いしばって耐えても、快感はじわじわと脳を犯していく。  ――もう無理! いやだ!   「ああっ! お願い! そこやめてぇっ!」  悲鳴のような声に、動きがふと止まる。  耳元に熱い吐息が近づいた。 「……そこって、ここ?」  ゾクリと背筋が震えた。  汗が首筋を伝い、声にならない息が漏れる。  ――しまった。  今ので、弱点を教えてしまった。 「ねぇ……ここだよね?」 「うっ……!」  くすくすと笑いながら、男はその一点を執拗になぞった。  耐えようとしても、身体が反応する。    声が漏れる。  脚が跳ねる。 「ここだね?」 「あああっ……!」  びくびくと震える体を見て、男は満足げに目を細める。  ――すぐに果ててしまう……。  覚悟したその瞬間。 「……あれー? どこだろ〜?」  男は急に方向を変え、快感の芯をそっと避けて擦りつけた。 「っ……!」  ――わざと……。わざと外して遊んでる……! 「ここかな?」 「あああっ……!」 「ダメだ。わかんないなぁ……ふふっ」  弄ばれている。  焦らされ、翻弄されて。    思わず、腰を動かしてしまった。    痛みなら、まだ良かった。  殴られた方が、裂かれた方が、ずっと――楽だった。    でも、こんな、快楽でじわじわと壊されるなんて。    それは、残酷すぎる。 「ひうううっ!」 「あれ? ここでもないかぁ、どこだかわかんないなぁ」  くくっと笑いながら、男は浅く抽挿を繰り返す。    逃げたい……でも、求めてしまう。    そんな自分が、汚らわしくて――吐き気がする。   「……お願い……もうやめてぇ……」 「やめる? 何を?」  こみ上げる嗚咽が、言葉を震わせる。 「気持ちいいところ、教えるから……だから、もう……遊ばないで……」 「そんなことしたら、負けちゃうよ? いいの?」    ――教えたら、負け。わかってる。そんなこと……でも、もう、どうでもよくなっていた。  ……奥の疼きが止まらないから。    言葉が詰まる。  喉が焼けるように熱いのに、指先は氷のように冷たかった。  教えたら終わり――でも、終わらせてほしい。  それでも。    アドニスは震える喉を押さえ、強く息を吸った。  そして、渾身(こんしん)の想いを叩きつけるように叫んだ。 「僕は……っ、あなたのような心の汚れた者に――屈したりなんか、しない……っ!」  その瞬間だった。  容赦のない突き上げが、腹の底を貫いた。  直腸の奥を何度も(えぐ)られる。  ――男の怒りを買ってしまった。  今までの調子とは明らかに違う。  苛立ちをぶつけるような抽挿が続き、足が震える。   「俺がなんだって? 心が汚れてる? その汚れた男のチンポによがってる神官様は、なんて言うんだ?」 「あああ……やめ……やめて……」 「気持ちいいんだろうが! 正直に言えよ!」    それまでの、抑揚のない声とは違った。  怒気を帯びた響きに、胸がざわつく。  ――そんな声、聞きたくない。    どうしても……ユリセスと、重なってしまう……。    腰を打ち付けられるたび、アドニスの脳裏には、あの静かな瞳が浮かんで消えた。   「ああ……ご、ごめんなさい……」    幻でも、妄想でも、声だけでも――いい。  愛していたのは、彼だけだったから。   「ごめんなさい?」 「ごめんなさい……ユリセス様……気持ちよくて……っ、気持ちよくて……」    男はフンと鼻を鳴らした。   「はぁ……またユリセスか……」    男の声色が戻ると、途端にアドニスも現実に引き戻される。  夢が破れた音だけが、胸の奥に鈍く響いた。

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