30 / 66
第三章 抗えない淫愛 1
光が差し込む。
救いのような朝焼けだった。
だが、アドニスを包むのは冷たく、痛い現実だった。
目に飛び込んできたのは、逃れられない事実――懺悔室の天井。
昨夜のすべてが夢であってほしい、と願った。
……そのすぐあと、身体を襲ったのは、ずしりと重く鈍い痛み。
アドニスは、裸のまま床に倒れていた。
喉は乾ききり、指一本を動かすのも億劫 だった。
それでも――目を瞑れば、男の声と香り、吐息までもが押し寄せてくる。
頭を振る。
何度も、何度も。
忘れたい。
だから、早く……日常に戻りたかった。
気力を振り絞って、アドニスは身体を起こした。
「……っ」
全身に、細かな痛みが走る。
ゆっくりと腕を伸ばし、目隠しを外すと、露 わになった自分の身体が目に入った。
腹部には 自分の白濁が、時間を吸って薄く乾き、皮膚に貼りついている。
手を伸ばすと、縄で縛られた跡――まるで罰を刻まれたような証があった。
――何度も、何度も犯された。
肉棒で掻き回されるたび、理性を脱いだ獣の声が喉から漏れ、最後は肉壁に吐精され、絶頂へと向かう。
――残っている、あの男の熱。
忘れたいのに、腹の奥にこびりついて離れない。
嗚咽を堪えるように歯を食いしばりながら、アドニスは浴場へと駆け込んだ。
ざばっと浴びた冷水が、火照る皮膚を過ぎて、蕾の奥に、まだ誰かがいた感触が蘇った。
そっと手を蕾に持っていった瞬間、アドニスは小さな悲鳴を上げた。
中に張型が収まっていた。
頭の奥で、あの声がまだ囁いている気がした。
『夜まで抜いちゃダメだよ。ちゃんと、俺の精液を覚えさせるまで、中に溜めてあげる』
手の甲がひび割れるほど、何度も壁を殴った。
泡立つほどの水しぶきが跳ね、アドニスの身体から滴り落ちる液体が何の跡なのかさえ、もう考えたくなかった。
――あの男は狂ってる……!
男を否定しても、共に快感を貪った事実は消えない。
教会全体に響いた快楽の鳴き声。
全身の痛みもわからぬほど、うねった身体。
今でも疼く――身体の奥。
「うっ……ううっ……」
アドニスは情けなくなって、その場に座り込んだ。
ボロ雑巾のように扱われて、悦ぶ自分が惨めだった。
何が神官だ。
何が村人を守るだ。
最後は信仰心や慈悲の心さえなくなって、ただの欲に塗れた獣になっていた。
そっと手を蕾にやる。
張型を抜くと、どろりと白濁が零れ落ちた。
それが誰のものかなんて、考えたくもなかった。
なのに身体は、まだそれを覚えていて、手放そうとしない。
必死に指で掻き出しながら、アドニスの視界は涙に滲んだ。
昨日のことは――夢だ。
あんな声も、あんな熱も、全部幻だった。
……夢に決まってる。夢じゃなきゃ、おかしい。
おかしいのは、夢でなかったことだ――。
鏡に映った自分が誰だかわからなかった。
白濁に濡れた身体も、涙に濡れた顔も。
思わず涙がこぼれそうになる度、こんなことあるはずがないと、何度も心の中で唱えた。
濡れた髪を拭い、服を整えると、アドニスは深く息を吸った。
握った扉の取っ手が、ひどく冷たく感じた。
ギィ、と重く軋む扉が、教会の外とアドニスの世界を繋げる。
その瞬間――。
甲高い悲鳴が、空を裂くように響いた。
ともだちにシェアしよう!