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第三章 抗えない淫愛 6 ⭐

 しばらくして、ゆっくりと扉の開く音がした。 「神官様、いいこだね。じゃあ、その机の上に座って」    手探りで机の(ふち)をなぞる指が、震えていた。  ためらいながらも、アドニスはそっと腰を下ろす。 「足を広げて」 「……っ……」  身体が拒否しても、逆らう術はなかった。  膝が震えるほどの羞恥と屈辱。  それでもアドニスは、足を開いた。  そして、神官としての尊厳を保つために、どうしても言わなければならなかった。  ――言わずにはいられなかった。 「どうして僕にこんなことをするの……?」  男の息が一瞬、止まった。 「あなたの目的は僕の命でしょう? こんな仕打ちをするくらいなら、いっそ殺して……」 「違うよ」  耳元で囁かれた声は、やけに甘くて、底が冷たかった。 「では、なぜ……!」 「愛してるからだよ」  背筋に悪寒が走った。  冗談のようでいて、本気のようで、どこまでも狂っている。  その言葉に、アドニスの胸は激しく脈打った。 「……俺はね、孤児だった。行き場がなくて、教会に(すが)った。でも、あいつらは笑顔で説教するだけで、パンも布団もくれやしなかった」  男の声に(あざけ)りが混じる。  アドニスの身体が、反射的にこわばった。 「神の名を唱えながら、裏では贅沢三昧。飢えた俺の目の前で、ぬくぬくと酒をあおってた。だから、俺は……そいつらを殺した」  アドニスの胸が締めつけられる。  救えなかった者を、ここで見ている気がした。 「神官様は知らないよね? 今でも、教会は腐ってる。信仰を盾にして、何も持たない人間を切り捨ててるんだ」  理不尽な憤りをぶつけられながらも、アドニスは言い返せなかった。  過去に何度も、見過ごしてきた真実だった。 「だけど……神官様に出会って、俺は変わったんだ」 「え……」 「教会の中で、ただひとり。神官様だけは、神様みたいに綺麗だった」  男の声音が震え始める。  陶酔に似た熱が、言葉に滲んだ。 「排水溝のネズミみたいな俺を、神官様だけが……微笑んでくれた」  アドニスの唇が震えた。  自分でも理由はわからない。  ただ、その言葉の奥に、たしかに愛のようなものが潜んでいた気がして――    息を飲んだ。     「でもね……それだけじゃ、足りなかった」 「え……?」    男は、熱に浮かされたように笑った。   「……俺は見たんだ。神官様が、あんなクズみたいな村人たちにも、あの笑顔を向けてたのを」  背筋にぞわりと悪寒が走った。 「俺は、あれを見て思った。もし、あんな奴らにも優しくできるなら……俺にも、もっと優しくしてくれるはずだって。いや、俺だけには、もっと……特別に、してくれるはずだって!」  男の声は、なぜか慈愛に満ちていた。  それがかえって気味が悪くて、アドニスは思わず耳を塞ぎたくなった。 「だって俺、神官様のこと見てたから。神官様があいつらを見る目と、俺を見る目は――違ってた。絶対に」 「……違います……!」 「違うわけないだろ! 俺を見てたじゃないか……俺だけを、見てたくせに!」  突然の叫びに、アドニスの喉が詰まった。 「神官様は俺を見てた。選んだ。……選ばなきゃ、おかしいだろ? あんなクソみたいな村人より、ずっと俺の方が、神官様にふさわしいんだよ!」  教会内に男の声が響いた。  アドニスは諦めたように、静かに口を閉じた。    ――もう、これ以上何を言っても、彼には届かない。   「……そうか。神官様も俺を拒絶するんだね。他の奴らと、同じ……だったんだ……」  男の声が、ぽつりと沈んだ。 「神官様は俺を救ってくれたのに……どうして……」  男が、ふらりとアドニスに身体を預けた。  次の瞬間、冷たい何かが蕾に触れ、アドニスの身体が跳ねた。   「ひっ……!」    ヌチュ、ヌチュ……と、蕾の奥をゆっくりと掻き回される。  なぞるような冷たい指先に、身体がビクンと跳ねた。    ――感じるはずなんて、ないのに。  一度、指が抜ける。  そして――再び、押し込まれた。  冷たさが、奥の壁をなぞるたびにぞくりと背筋を駆け上がる。    ――まさか、何か塗っている……?    男が指を抜いた瞬間、肉壁がじわじわと熱くなってきた。  自然と屹立も熱を持ち始める。   「な、何を……!」 「……神官様を、俺だけのものにするための……儀式だよ」    男がふふっと笑った瞬間、秘肉の奥に鈍い熱が灯った。  まるで小さな火種が膨れ上がり、肉の奥から灼けるように疼く。  ドクンドクンと音が聞こえてくるほど、アドニスの屹立は真っ赤に腫れ上がった。   「ひうぅぅううっ! 痒い! 痒いっ!」 「くくくっ、ねぇねぇ、どこが痒いのぉ? どこぉ?」    男は嬉しそうにアドニスの耳元で囁いた。    ――ダメだ! 男の手に屈しては……! こんな卑劣なやつに……!    最初こそ歯を食い縛って耐えてはいたが、時間が経つにつれて痒さも尋常ではなくなってきた。    蚊に刺されたようなヤワなものではない。    肉壁を溶かすような熱が、じわじわと侵食し、最奥の疼きも腰に響くほど更に激しくなる。  流れ出す汁が止まらず、腹部の皮膚にねっとりと貼りつく。  やがて、それはぽたりぽたりと滴り落ち、机の上に静かな水音を響かせた。   「痒いぃ……! 痒いよぉっ……!」    思わず自分の手を蕾へ伸ばした。  指で肉壁をかき回すが、なかなか痒みは取れない。   「あっ……ああっ……かゆい……」  自分の指が止まらない。  でも、胸元に触れたその冷たい感触――それは、自分の手じゃなかった。    ……また、奴の指だ。

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