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第三章 抗えない淫愛 8 ⭐

 ――そうだ。薬のせいだ。薬のせいなのだから、刺激に耐えられるわけがないんだ。    頭に浮かんだ瞬間、アドニスは忘れるようにすぐさま頭を振った。    ――ダメだ、アドニス! この男の言葉を聞いちゃダメだ!   「この薬結構強力だから、朝までずっとこのままかもね。そんなに神官様が我慢するっていうなら帰ろうかなぁ」    朝まで、このまま――。  どくん、と心臓が跳ねた。  疼きは引かず、じわじわと奥を焦がしてくる。  この感覚が、ずっと続いたら。  息をしても、祈っても、何をしても、落ち着けなくなってしまう。  誰かの指でもいいから、身体に入れてしまえば、少しは楽になれるかもしれない――。  そんな考えが、ほんの一瞬、脳裏をかすめて。  ……怖くなった。  このままでは、自分のままでいられなくなる。  自身を扱いても、快感は来なかった。  疼きだけが集中して、屹立と肉壁をじりじりと追い詰める。  ……どうしても、自分ではどうにもできない。  ――薬のせいだ。  そう思えば、男に助けを求めても……。  狂ってしまう前に、誰かに――。  いや、これは……薬のせいで……!  薬の……。 「……薬の……せい、なんだよね……?」  うわごとのように呟いた瞬間、男がクスッと笑った。   「そうだよ。神官様は悪くない。全部、俺のせいでいいんだよ……」  身体がビクッとはねる。  心臓の音が、耳の奥で響いて止まらない。  ――ダメ……。この男の……言葉に……従っては……。  だけど――身体が……もう限界だった。    掻きむしりたくなるほどの疼きが、意識を侵していく。    こんなにも苦しいのに、どうして……。  どうして、神はじっと黙っているの……。  しんとした空気の中、ただ疼きだけが鼓動に乗って広がっていく。    アドニスの唇が――一人でに震えた。 「さ……触ってぇ……」  祈りじゃない。  これは、欲しがる声だった。  熱に浮かされたアドニスは、あまりに綺麗で――。  その口元が、淫らに濡れているのがわかった。  ごくん、と喉が鳴る。 「……どこを?」  うわずった声が、耳元をかすめる。  荒い鼻息がかかって、アドニスの身体がビクビクと震えた。   「乳首……乳首いじってぇ……」    男の鼻息が荒くなり、耳元で熱がかかる。 「……なぁ……そんな声出すなよ……」  心臓の跳ねる音が、自分でもわかるほど大きくなった。  どこかで聞いた低くて掠れた声は――ユリセスに似ていた。  ――やめて……。ユリセス様の声で、そんな……。  カチャ、とベルトが外れる音。  鼻先に滾る熱と匂いが押し寄せてくる。    ……この香りは、よく知っている。  陶酔を誘うような熱と甘さ――忌まわしいほど、記憶に残っている匂いだった。  それが口元へと近づいたとき、唇がわずかに熱を帯びる。   「……責任、取れよ……」  命令のようで、懇願のようで――。  その声音に、アドニスの身体がびくんと震えた。  ふいに、硬く熱い感触が唇に押しつけられる。  ――こんな、屈辱的なことをされているのに……。 「う……うう……」 「……舌、出して」  吐息がかかる距離。  命令に、抗う余地はなかった。  頭では拒んでいるのに、アドニスの舌は勝手に動く。  先端に触れると、灼熱の硬さと、浮き出た血管が舌先に伝わった。   「あぁっ……かわいい……」    男はアドニスの舌に這わせるように、腰を振り始めた。  先端から根元にかけて、アドニスの唇を蹂躙する。    唐突に乳首をつねられて、アドニスの腰が浮いた。   「あっ! ああっ!」 「ご褒美だよ……」    爪で乳首の先端を何度もはじかれる。   「あっ……! あえぇっ……!」 「ああ……気持ちいいよ……神官様……」    乳首が、ぎゅっと強くつねられる。  さらに、指で挟んだまま、じっくりと捏ね回された。 「あうっ……! んんっ!」  その刺激が、腰の奥まで響いて――。  アドニスの身体がびくん、と震える。   「これがいいの?」 「あっ……あうぅ……」    男は乳首をぎゅっとつぶすように指で挟むと、器用にゆっくりと()ねた。   「ひいっ! あへぇっ!」    痛いはずなのに、痛みよりも快感が全身に行き渡る。   「うわ……腰が上下に動いてるよ……やらしい」    男の(さげす)む言葉もアドニスの快感を増加させる。    ――ああっ……痛いのに……気持ち……いいっ……。    ビリビリと走る痛みと快感が、乳首を交互に貫く。  こんなに潰されるように捏ねられたら、乳首がどうかなってしまうかもしれない。    いや、どうなってもよかった。    ――もっと、もっと……っ。    自分でもどうにもならない衝動が、腰を淫らに跳ねさせた。   「乳首好きなんだ?」 「あひっ……ああっ……つ……つまんで……」 「どうしようかなぁ……」  男はクスクス笑って、乳首から指を離した。 「いやだぁっ……もっとつまんで! お願いぃ! お願いだからぁ!」 「ふふっ……かわいい」    男はうっ血してしまうかもしれないほどの強さで、ぎゅっと乳首をつまんだ。   「あえええっ……!」 「このあとは、どうしてほしいの?」 「あうう……こねて……いっぱいこねてぇっ……」    男はくすっと笑うと、指で器用に挟み、じっくりと捏ね始めた。 「ああんっ……ああっ……それ……それしてぇ……」  けれど、同じ刺激だけじゃ、もう足りない。  もっと……もっと、強く――!    腰を上下に動かした拍子に、乳首が強く引っ張られる。    その瞬間――。    ビキッとした快感が脳を突き抜け、目の奥で光が弾けた。   「あああああぅっ!」    頭が一瞬に真っ白に染まった。   「うわ……腰ビクビクさせてやらしい……。痛いのが好き?」 「えぇぅ……んぁっ……」    一瞬の絶頂では疼きも治らなかった。  むしろ、中途半端な絶頂に終わって、疼きが余計激しくなってしまった。    ――やだ……終わってない……まだ、足りない……っ! でも……言っちゃダメ……! ……また、壊れてしまう……!    アドニスは――腰をくねらせ、男にせがんだ。

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