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第三章 抗えない淫愛 10 ⭐

「そうだ……そろそろ解毒剤をあげないとね……」    髪をつかんで、男は好きなように腰を振り始めた。    ――うぅ……助けて……助けて、ユリセス様……。   「はぁっ……出すよ……出すよっ……!」    肉棒が口いっぱいに膨張する。  出る、と覚悟した瞬間、男は身体を離した。  顔に熱いものが降りかかり、青臭い匂いが鼻奥を刺激する。   「うっ……ううっ……」 「うわぁ……真っ白になって、かわいい……」    顔に広がる熱と、鼻をつく匂い。    理解した瞬間、涙が溢れた。  惨めさと、抗いきれない悦びへの、自己嫌悪の涙だった。    昨夜も、今日も。  この男の性欲を満たすだけの道具だった。    それが悔しいはずだった。    ――けれど、本当は。    肉人形にされて、悦んでいた。  抗えば身体が熱くなり、否定の言葉は脳を淫らに溶かしていく。  拒めば拒むほど、抗えない事実が身体の奥に染み込んでいく――それが、快感を増していく。    こんな自分が、一番惨めで、一番……憐れだった。   「口を開けて」    震えながら口を開けると、男の指が舌に何かを擦り付けた。  舌に走る痺れと同時に、鼻腔(びくう)を刺すような匂いが押し寄せ、喉の奥で嗚咽が震えた。   「ちゃんと俺の味を覚えるんだよ」 「うっ……うあっ……」 「俺がいいっていうまで、まだ飲んじゃダメだよ」    男は何度も顔にかかった精液を指で(すく)っては、舌全体に擦り付けた。  口内につんとした香りと苦味が広がって、今すぐにでも飲み込んでしまいたい衝動にかられる。  思わず、口を閉じそうになった。   「勝手に飲んだら、村人殺すよ?」    男の冷酷な声に、身体が震えた。  必死に口を開けて、されるがまま時が経つのをじっと待った。   「俺の味覚えた?」 「あっ……ああっ……」  ――覚えさせられた。嫌でも。  頭を縦に振ることしか、できなかった。  そして男は、まるで犬にでも命じるように、軽く言った。 「よし」  たった一言が、胸の奥に突き刺さる。  とても屈辱的だった。    でも、拒めば村が危ない。  ……だから。  抗うことも、拒むこともできなかった。  ただ、喉の奥にそれを流し込むしかなかった――自分の意思で。  ――神よ……どうか、お赦しを……。    ごくんと音を立てて飲み込むと、男はくくっと笑った。   「うれしいなぁ……俺の精液が神官様の身体に取り込まれるんだよ。中から……ゆっくり溶けて、神官様の全部に染み渡ってくんだよ。俺のが、ね」  下腹が、きゅうっと収縮した。    言葉が、耳の奥を撫でて、脳の芯に火を点ける。  考えるより先に、身体の奥が熱く、疼いた。    まるで――男と一つになった気がした。    ――お願い……そんな言い方しないで……。思い出すから……。 「……わかる? 中に……俺がいるよ」    その言葉を聞いた瞬間、舌の奥がじん、と甘く痺れ、蕾の奥までじわりと濡れた。   「あううぅん……!」    ――やめて……! 思い出しちゃうよぉっ……!    否定したくても、身体は男の刺激を求めている。  最奥がズキン、ズキンと疼き始める。    男の吐息。  奥を撫でたときの熱さ。  腰に響く、甘い刺激。  目の前が弾ける絶頂。    自覚するよりも早く、腰が小さく跳ねた。  ――いやだ! 覚えたくない……覚えたくないのにぃ……っ!  勝手に腰が跳ねてしまう。  男の肉棒を求めるように――。 「あうう……うう……」 「もう覚えちゃったね」 「……違う……違うぅ……」  でも、腰だけが、もう嘘をつけなかった。  男を誘うように、くいっと、揺れる。  ねだるように、ゆっくりと――。  何度も。 何度も。

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