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第三章 抗えない淫愛 12 ⭐

「して……お願い……してよぉ……」 「して?」 「……セックス……してぇ……」    男はくすっと笑った。   「俺、セックスのやり方知らないんだよね。どうするか教えてよ」    アドニスは、嗚咽をこらえながら涙をこぼした。  ――命令されて……胸が、ときめいた。  そんな自分が、許せない……はずなのに。   「ねぇ、どうするのー?」    男の凶器が、アドニスの屹立にぬるりと擦りつけられる。    熱い。    それだけで、腰が跳ねた。   「あ……そ、それを中に入れて……」 「それって何? 具体的に言ってくれないとわからないよ?」 「ふぐぅぅっ!」    容赦なく、肉棒で弱点を上から押さえつける。  ぐりぐりとすり潰されながら、アドニスは羞恥に喘いだ。  ――ユリセス様……どうか……こんな淫らな僕を……許してください……。    目隠しの奥で、涙がこぼれ落ちるのを感じた。  でも、どこに落ちたのかはわからない。  ただ、全身を這うような恥ずかしさと屈辱が、肌にじわりと染みついていく。    こんなこと、神が赦すわけない。    それでも――言わなきゃ、終わらない。   「ち……ぽ……を」 「何?」 「ち……チンポを……中に挿れて……」  男は舌舐めずりしながら、くくっと笑った。 「ちょっと興奮したけど……まだ足りないなぁ……」 「うう……」 「ご主人様、チンポ挿れてください。って言って?」  頭が、身体が、一気にかっと熱くなる。    ――この男は……どこまで僕を辱めるんだ……!  アドニスの目に、じわりと涙がにじむ。  怒りも羞恥も、もう言葉にならない。    男はアドニスの耳元で、優しく囁いた。   「……いっぱい、俺が気持ちよくしてあげるよ」  その一言が、心の支えをひとつ崩した。  身体は、快楽という奈落の縁で、ぎりぎりの理性にしがみついていた。  けれど、下から伸びる無数の見えない手が、その足を引きずり込もうとしている。  下半身が、淫らに熱を持って痙攣(けいれん)し、男の言葉だけで絶頂へ追い立てられていく。 「我慢しなくていいよ……。いっぱい中ぐちゃぐちゃにして、真っ白にしてあげる……」 「んひぃっ……!」    我慢して……我慢して――その手がゆっくりと離れていった。  耐えられなかった。    身体の奥から、秘肉が疼いて男を求めている。    中をめちゃくちゃにして欲しかった。  掻き回して狂わせて欲しかった。  ――欲しい。欲しいよぉ……。  口端からとろりと唾液が垂れる。    アドニスは奈落の奥底に引きずり込まれていった――。   「あえぇ……ご、ご主人様ぁ……ち……チンポ挿れてくださいぃ……」 「あーあ、言っちゃった……恥ずかしくないの?」  男は全く動こうとしなかった。  腹部にずっと肉棒の熱だけが、肉壁へ染み渡り、欲しいと暴れている。   「ふえぇ……えぅぅ……ご、ご主人様……」 「なぁに?」 「くださ……い……ご主人様の……チンポ……挿れてぇ……」  男は急に顔中にキスの雨を降らせてきた。 「かわいい……かわいいよ……俺の神官様……」 「あ……あう……も、もう……」 「今、あげる」  蕾に熱が当たったと思った時には、目の前が白く飛んでいた。 「えぅぅうううううう!」  声にならない声が響きわたる。  最奥に先端が当たった瞬間、身体中に電気が流れたようにビクビクと震えた。 「あれ? 挿れただけでイッちゃったの?」  その一言で、初めて気づいた。  お腹のあたりが、ぬるく濡れている。  そんなの、知らなかった。……知らされるまで、わからなかったのに。  アドニスの頬に、熱が上る。  それが羞恥か、快楽の名残か、自分でもわからなかった。 「……気づいてなかったの? ほんと、いやらしい身体だね」  男の手が腰を掴む。  次の瞬間、打ちつけられるような動きが始まった。 「はうううっ……ああっ!……あぁぁぁんっ!」 「うわっ……すっごい熱いし、いっぱい締め付けて……そんなに俺がほしかった?」 「あううぅん!」  腰を一突きされるごとに、目の前がパチっとはじける。  最奥の疼きを中和されるように先端で擦られると、腰にとろけるような刺激が走った。 「あへぇ……溶けるぅ……腰が溶けちゃうぅ……!」 「ふふ……一緒に溶けちゃおうか……」 「ふぁぁあっ!」  足がずっとガクガクと震えている。  一人では得られなかった快感に背筋がぞっとする。 「あ……ああっ……もう……もうイッ……ちゃ……」  果てる寸前に、男は止めた。 「ねぇ……俺のこと愛してるって言って?」  突然、頭が真っ白になった。    ――愛してる? 何を……この人は……。    アドニスは唇を固く閉ざした。  それでも、最後の一線だけは越えたくなかった。  さっきまであれほど熱かった身体が、芯だけを残して冷えていく。 「ご主人様、愛してるって言ってよ」  耳元で囁く声が、本物の悪魔のようだった。  言わなければ……男に従わなければ村人が――脅迫されている焦りではない。    言えば、本当に愛してしまいそうで怖かった。    顔も知らない、ただ――ユリセスに声が似ているというだけで。

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