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第三章 抗えない淫愛 13 ⭐

「あ……い、いや……」 「そう、なんか()えちゃった。やめようかな」  ――やめる……?  ぶるぶると震えながら、男の腕を掴んだ。  だが、無情にも男はその手を振り払った。 「あ……ああ……」 「何?」 「し……して……続き……して……」  もう一度、男の腕を掴もうとしたが、暗闇の中では手が空を切るだけだった。 「いや」  その、たった一言に最奥が痺れ出す。  まるで、もっと(いじ)めて欲しいと疼きが増してくる。 「あぁ……あひぃ……」  ゆっくりと中の熱が出ていこうとしている。 「いやっ! お願い! いやだぁっ!」  髪を振り乱して暴れると、男はくすっと笑った。 「じゃあ、言って。ご主人様、愛してるって」  それは――悪魔の契約のようだった。    唇がわなわなと震える。  頭はずっと男を拒否をしている。    けれど――身体は。    マグマように最奥は煮えたぎり、男の欲情の赦しを貰わなければ、この(かせ)を外せそうになかった。  ――もう……もう……抗えない……。    アドニスの中で保っていたものがパリンと割れた。   「ご……ご主人様……愛してる……」 「……なんて?」 「ご主人様……愛してる」 「聞こえない」 「うああっ! ……ご主人様ぁっ! 愛してるぅっ!」  発狂したように叫ぶと、求めていた熱が再び戻ってきて、身体が快楽の波に震えた。 「あああぇっ!」 「かわいい……かわいいよ……」  しかし、男は動こうとしない。 「ご主人様……愛して……る……はうううん!」  ぽつりと言うと、男は先端で最奥の弱点を擦り上げた。  続けるのかと思えば、またじっとして動かない。 「ご主人様ぁ……愛してる……お願い……動いてぇ……」  再び中を擦り上げると、ぴたっと動きが止まる。  理性がなくなったアドニスでもわかる。  言わないと、動いてくれないのだ。 「ご主人様ぁっ……愛してる……愛してるよぉっ……」  男はリズムよく腰を打ち始めた。 「愛してるっ……あひっ……愛してるぅ……愛してるのぉっ……」  言うだけ、その分快感が得られる。  男の腰に身体が離れないよう足を絡めた。 「んふっ……はぁっ……愛してる……愛してる……ご主人様ぁ……離れないでぇ……」 「ふふっ……離さないよ……」  ただ、がむしゃらに叫び続けた。  絶え間なく刺激を与えてくれるのなら、声が枯れても構わなかった。  欲しい、欲しいという感情が身体を縛り付けていた。   「ああっ……ご主人様……イク……イクぅ……」  身体がぶるぶると震え始める。  中で男の肉棒が膨張する。 「俺も愛してるよ……」  その一言が、脳の奥で何かを壊した。    たった五文字の呪い。  それだけで、信仰も理性も、ぜんぶ、燃やし尽くされる。  抗えないと、わかった。 「ふぁぁあああああっ!」 「……くっ!」  フワッと浮いたかと思うと、ジェットコースターのように真っ逆さまに堕ちていく。  その落下の途中で、ほんの一瞬――ああ、ここが帰る場所だとさえ思った。  ――心が満たされた。    祈りは届かないままなのに、身体の奥だけが……あたたかい。    男の熱く(たぎ)る精液が、ねばっこく肉壁に染み渡る。  一滴も残さず、中に男の快楽を教え込まれた。 「あひっ……ひいっ……あえ……」 「もっと俺の身体覚えて……俺の形になるように、いっぱいハメてあげるから……」  男の欲棒が再び膨張を始める。  こうなれば、昨夜のようにまた(もてあそ)ばれる。  わかっている。  だからこそ。    もう心の中は言葉で満たされていた――やめないで、と。  

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