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第四章 狂愛に、堕ちて 1
昨日と同じはずの朝。
だが、身体は悲鳴を上げていた。
立ち上がるだけで、全身に激痛が走る。
喉も、焼け付くように痛んだ。
昨夜の叫びのせいだ。
昨日と違うのは、身体にかけられた温かい毛布。
――余計なことを……!
怒りに任せて、毛布を乱暴に剥いだ。
身体を起こした瞬間、蕾に走る異物感――。
まただ。
いつの間にか、張型が埋め込まれている。
思わず息が詰まった。
怒りよりも早く、こみ上げてきたのは……満たされた心だった。
その想いをかき消すように、頭を振った。
逃げるように、浴場に行く。
冷たい水を浴びながら、辿りたくない記憶が勝手に思い起こされた。
『今日の夜も会いに行くからね。俺が来るまで抜いちゃダメだよ……』
一瞬、舌がだらりと垂れた。
刹那の――恍惚 。
……まただ。
あの囁きを思い出すたび、身体が勝手に、蕩けてしまう。
――僕は……何を……。
はっとして、何度も頭を振る。
それでも、身体の奥の熱は消えてくれない。
唐突に、壁を拳で叩きつけた。
痛みで紛らわせなければ、心が保ちそうになかった。
――もう、やめて……。僕も狂いそう……。
あの男の証しを消すように、何度も何度も身体を洗って清めた。
ただ、どれだけ洗っても、蕾に残った熱だけは、どうしても拭えなかった。
だから――張型に、触れられなかった。
――これを抜くと……村人が襲われるかもしれない……。
都合のいい言い訳を作った。
本当は――「抜きたくなかった」だけなのに。
冷水に打たれているのに、熱は消えなかった。
全部が張型の奥に――疼きとして集まっていく。
『……俺も愛してるよ』
あの囁きが、脳裏に焼きついたまま離れない。
思い出すたび、身体の芯がぴくりと疼いた。
アドニスは免罪符の時間が来るまで、じっと横たわって男のことばかりを考えていた。
……男の声、男の熱、男の形――そのすべてが、まだ身体の奥に残っている。
抜かれぬ張型よりも、自分の心のほうが男に嵌 められている――。
まだ認めたくなかった。
そう思ったはずなのに。
気づけばアドニスは、何度も足をこすり合わせていた――張型を、奥で感じるために。
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