43 / 66

第四章 狂愛に、堕ちて 1

 昨日と同じはずの朝。  だが、身体は悲鳴を上げていた。  立ち上がるだけで、全身に激痛が走る。  喉も、焼け付くように痛んだ。  昨夜の叫びのせいだ。  昨日と違うのは、身体にかけられた温かい毛布。  ――余計なことを……!  怒りに任せて、毛布を乱暴に剥いだ。  身体を起こした瞬間、蕾に走る異物感――。    まただ。    いつの間にか、張型が埋め込まれている。    思わず息が詰まった。    怒りよりも早く、こみ上げてきたのは……満たされた心だった。  その想いをかき消すように、頭を振った。    逃げるように、浴場に行く。  冷たい水を浴びながら、辿りたくない記憶が勝手に思い起こされた。 『今日の夜も会いに行くからね。俺が来るまで抜いちゃダメだよ……』  一瞬、舌がだらりと垂れた。    刹那の――恍惚(こうこつ)。  ……まただ。  あの囁きを思い出すたび、身体が勝手に、蕩けてしまう。  ――僕は……何を……。  はっとして、何度も頭を振る。  それでも、身体の奥の熱は消えてくれない。    唐突に、壁を拳で叩きつけた。  痛みで紛らわせなければ、心が保ちそうになかった。    ――もう、やめて……。僕も狂いそう……。    あの男の証しを消すように、何度も何度も身体を洗って清めた。  ただ、どれだけ洗っても、蕾に残った熱だけは、どうしても拭えなかった。    だから――張型に、触れられなかった。  ――これを抜くと……村人が襲われるかもしれない……。  都合のいい言い訳を作った。  本当は――「抜きたくなかった」だけなのに。    冷水に打たれているのに、熱は消えなかった。  全部が張型の奥に――疼きとして集まっていく。   『……俺も愛してるよ』  あの囁きが、脳裏に焼きついたまま離れない。  思い出すたび、身体の芯がぴくりと疼いた。  アドニスは免罪符の時間が来るまで、じっと横たわって男のことばかりを考えていた。    ……男の声、男の熱、男の形――そのすべてが、まだ身体の奥に残っている。    抜かれぬ張型よりも、自分の心のほうが男に(はめ)められている――。  まだ認めたくなかった。  そう思ったはずなのに。  気づけばアドニスは、何度も足をこすり合わせていた――張型を、奥で感じるために。

ともだちにシェアしよう!