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第四章 狂愛に、堕ちて 2-2 ⭐
言い終えるが早いか、男の低い声が懺悔室に響いた。
「神官様、俺は神に仕える清らかで高貴な神官様を犯してしまいました」
「なっ……!」
アドニスの身体が小さく震える。
小窓から漏れる男の吐息に、張型が脈打つように疼く。
――これ以上聞いてはいけない。
わかっていても、身体は一字一句聞き逃さまいと耳を傾けていた。
「一日目は……嫌がる神官様を無理やり襲って……禁忌の場所を俺のチンポで……めちゃくちゃにしてやりました」
――待って……。
「ボロボロに泣いて嫌がる神官様が可愛くて……何度も……何度も中に熱い俺の精子をぶっかけてやりました」
その言葉と共に、アドニスの手が無意識に自身へと伸びる。
反応する身体を止められず、喉の奥からか細い喘ぎが漏れた。
「でも、嫌がってるフリして、神官様も一緒に腰振ってよがってたよね?」
「い……言わないで……」
思わず声が震える。
男は喉の奥をくくっと鳴らした。
「本当は二日目なんて行く気なかったのに……でもね、あんな獣みたいな声を思い出すと……俺のチンポが挿れたいって疼くんです」
――ダメ、ダメっ。
「今度は媚薬を大量に塗って……俺のものにしたくて……。まずは乳首を形が変わるくらい……指で捏ねてやりました」
「んひっ……!」
アドニスは身をよじるように椅子にもたれ、指先で乳首に触れる。
男がしたように強く摘んで、捏ねまわす。
だが、同じような快感は来ない。
――もっと、もっと強く……つねて……。
熱くなった蕾がじわりと反応し、腰が浮く。
「あぁっ……! やだ……だめっ……!」
自分で乳首を弄っていることに気づき、手を止めようとするが、男がそれを許さない。
「そんなつねり方じゃダメだよ。もっと、もっと強くつねて、捏ねて。昨日みたいにもっと……」
「あひっ……も、もうやめ……」
「ふふっ……とても可愛かったんですよ……必死になって気持ちよさそうに腰をくねらせて……。ああ、神官様は口の中も気持ちよくて……俺のチンポを美味しそうに咥えて……音を立ててしゃぶるんです」
「ああ……あひっ……」
思わず、犬のように舌を垂らして舌なめずりをする。
仮想の肉棒を思い出して舌を動かす。
口内で暴れる――男の欲棒の熱、舌が痺れるほどの苦味、鼻をつく青臭い香り。
――ああ……舐めたい……。熱いの……しゃぶりたい……。
「はぁっ……神官様が……その後、俺に……なんて言ったと思います?」
アドニスの身体が一気に熱くなる。
男の欲情した声は――愛しいユリセスに似ていた。
「ご主人様、チンポくださいって……」
「はううっ……!」
張型がズブリと奥に当たる。
それは男のものではないのに、身体は男の告白に応じるように疼き出す。
「奥の奥までチンポで擦りあげて……何回も中をぐちゅぐちゅにして……びちょびちょにして……。神官様は腰を震わせながら締めつけてきました」
「ひいぃっ!」
我慢できずに張型に手をやって、抽挿を始めた。
昨日のように奥を先端でぐりぐりと抉るように擦られて……でも同じような快感はこない。
「ああ……その時神官様は愛してるって……俺を愛してるって何度も叫んでました」
「や……やめて……」
――違う……本当に愛してるなんて……そんなわけ……。
否定しても、身体は正直だった。
自分で何度も中を掻き回しても、あの――天にも昇るような衝撃には届かない。
なのに、欲望だけが熱を帯びて、秘肉がドクドクと脈打ち始める。
疼きが止まらない。
もう、抑えきれないほどに――あの場所を、めちゃくちゃにしてほしい。
薄く目を開けて、小窓を見やる。
そこには、男の欲情を孕んだ吐息だけが、静かに満ちていた。
……たった一枚、扉を隔てた向こうに、男はいる。
すぐそばに。
手の届くところに――。
――挿れたい。 中に……中に欲しい……。
「ねぇ、俺のチンポ欲しいでしょ……?」
「んひぃ……っ!」
思わず、腰がガクガクと震えた。
アドニスはあられもない姿で腰を振り、男に見えるように、何度も張型で抽挿を繰り返していた。
「もう奥まで挿れて、イキ狂いたいよね……? ああ……俺も挿れたい……ぐちゃぐちゃにして……熱い精子ぶっかけて……真っ白にしてやりたい……」
――もう、やめて……お願い……。
けれど、その願いは、誰にも届かない。
閉じ込めていたもう一人のアドニスが、ぬるりと顔を覗かせる。
欲望に濡れた瞳で、肉を欲しがる獣――
出してはいけない。
開けてはいけない。
それは、自我を壊すパンドラの匣だ。
自分が、自分でなくなる――
そんな未来が、すぐそこに迫っているのに。
けれど、身体はもう抗えない。
蕾から、淫らな記憶に染まった男の白濁がゆっくりと、零れていく。
小窓越しに、男のくぐもった声が聞こえた。
「……神官様……愛してるよ」
その言葉が脳髄を雷撃のように突き抜けた。
思考が焼き切れ、ただ愛という呪いのような甘言だけが、脊髄に刻み込まれていく――。
心臓が止まったように思えた。
けれど、止まったのは感情だった。
「もうやめてぇっ!」
絶叫とともに、アドニスの身体が跳ね上がる。
腰が浮き、足が突っ張り、喉が勝手に喘ぎを漏らした。
叫びたかったのに。
否定したかったのに。
快楽の渦は、そんな願いさえ呑み込んでいた。
張型の奥が痙攣し、脈打ち、絶頂の波が容赦なく押し寄せてくる。
身体は、求めていた――愛してるの一言を。
小窓の向こうで、男がくすりと笑った気がした。
「最後に神官様をいっぱい犯したかったなぁ……」
「あっ……ああっ……」
「今度いつ会えるかわからないけど、元気でね」
男が踵 を返して、コツ、コツと音を立てて去っていく。
どんどん音が小さくなっていく。
――このままでいいの?
最後になるかもしれない。
あの熱、あの硬さ、あの奥まで届いてくる圧倒的な存在を――
もう二度と感じられないなんて、そんなの……嫌だ。
でも、追いかけてはいけない。
自分は、神に仕える身なのだから。
そんなことは、分かってる……はずなのに。
欲望が、理性をかき乱す。
足が勝手に動く。
胸が苦しい。
喉が焼けつくほど、アレを求めている。
身体が扉へと向かっていた。
ガシャン。
意識が飛びそうになるほどの衝動だった。
気づけば、鍵は外れていた。
――いや、外したのは、自分だった。
震える指で目隠しを結ぶ。
扉の前で、すとんと座り込み、胸の前で手を組んだ。
まるで、神に祈るように。
そのとき、アドニスはすべてを差し出す覚悟を決めていた。
キィ……と扉の開く音がした。
「ほ……欲しいです……チンポ……欲しいです……」
言葉にしてしまった瞬間、もうすべてが崩れていった。
――神よ……今だけ目を瞑って……ください……。
男のリズムを思い出して、腰が淫らに跳ねる――。
欲望に従うことでしか、生きられない身体になってしまったかのように。
身体が、腰が、最奥が、ただ一つ――男の熱く滾る欲棒を求めていた。
「やっぱり……身体は覚えてるんだね……」
声を聞いた瞬間、舌がだらりと垂れた。
自分でも信じられないほど素直に、素早く――。
その姿はまるで、主人を前にした忠犬だった。
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