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第五章 偽りの愛でも、そばに

 耳に入ってきたのは、朝を告げる鳥の声。  それは昨日と変わらない、穏やかな朝のはずだった。  でも――そこに、彼の姿はなかった。 「……行かないでって、言ったのに……」  薄明るい光に包まれながら、静かに世界が終わったようだった。  身体中が痛い。  喉が焼けつくほどに痛い。    それ以上に――心が、ずっと痛かった。  男がいないという現実が、何よりも怖かった。  身体にかけられた毛布を()ぐ。  起き上がった瞬間、蕾にわずかな違和感が走った。  とろり、と。  男の愛――白濁液が、静かに零れた。 「なんで……なんで、最後に……挿れてくれなかったの……」    漏れた熱を、そっと指先ですくい取る。  大切なものをしまうように、自らの蕾に押し戻し――張型を、ゆっくりと差し込んだ。    ひたり、と満たされる感覚。  身体の奥から、あの人の熱が――じんわりと戻ってきたようで。    ――ご主人様、ほら、いい子にしてるよ……。僕に、ご褒美……くれるよね……。今日も来てくれるよね……。    目を閉じて、何度も、何度も祈った。  扉の開く音を、ただ、それだけを夢見ていた。  ……でも。  時は、残酷だった。  祈りも願いも届かないまま、夜は、静かに過ぎていく。  男は――来なかった。  来ないことが、こんなにも寂しいなんて。  こんなにも、胸を締めつけるなんて――思いもしなかった。  

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