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第七章 愛という名の赦し 8 ⭐

 気づけば、ユリセスの首に腕を回して、自分からキスをしていた。  何度も、何度も(ついば)むように唇を合わせていると、突然ユリセスは舌を入れてきた。 「んんっ……んふっ……!」    ねっとりと絡む舌に、思考がじわじわ溶かされていく。  じゅるっ、と粘膜が吸い上げられた音が、脳を痺れさせた。 「あ……ああ……」  腰がゾクゾクして、思わず屹立をユリセスの太ももになすりつけた。    ちゅく、ちゅくと卑猥な音が脳に響く。    これは誓い――いや、快楽に魂を売る、悪魔との契約みたいだった。    ユリセスの唇を離すまいとすると、力づくで離された。   「はぁ……アドニス……今、自分が何してるか……わかってる?」 「んああっ……」 「いいの? 『ユリセス』とキスしたかったんじゃないの?」 「あああ……して……もっとしてぇ……」  我慢できずに、犬のように舌をだらんと垂らした。    悪魔の契約でも良かった。  ――痺れる快感が欲しかった。    ユリセスはクスッと笑うと、再び唇を重ねた。  もう何も考えられないほど、ユリセスと口付けを交わしていた。    ユリセスが温かい唾液をくれる。  それが嬉しくて、音を立てて飲み込んだ。 「んんっ……!」  ユリセスはアドニスを抱き寄せ、そっと机に座らせた。  そのまま服に手をかけると、月明かりが柔らかく、アドニスの裸身を照らした。  白い肌が光を受けて、まるで神への供物のように浮かび上がる。  そして、ユリセスも静かに――。  自分の上着に手をかけ、脱ぎ始めた。   「アドニスはベッドよりここが好きだもんね」 「うう……あう……」 「あれ……こっちの乳首だけ大きくなってるね。自分でいじったの?」 「えうううっ!」  乳首を捏ねられて、腰がびくびくと跳ねた。  ユリセスと離れてから、毎晩のように――自分で、いじってしまった。    片方だけ。  強く。  何度も捏ねて。  爪で掻いて。  そう、ユリセスに教え込まれた通りに。  ……忘れられるわけがない。  いや――忘れたいなんて、一度も思ったことがなかった。 「いじったの?」  首を縦に振ると、ユリセスは満足そうな笑みを浮かべた。 「……いけない子だね……俺のいないとこでこんなことして……」 「あうう……ゆ、ユリセス様ぁ……ごめんなさいぃ……」  ユリセスは一瞬、冷たい視線を落とすと――。  乳首を容赦なく、つねり上げた。 「ひううううううっ!」 「こんなに痛くしても気持ちいいんでしょ?」 「ううっ……気持ちいいです……気持ちいいですぅ……」 「うわぁ……変態」  そう言いながら、指で乳首が取れそうなほど、ぎゅううっと(ひね)り回す。   「あひいいいいいいぃっ!」  脳が真っ白に染まり、屹立から精が少し漏れた。 「あえぅ……ゆ、ユリセス様ぁ……気持ちいいぃ……あぁん……ご主人様ぁ……」  口から溢れた名前に、自分でもゾクリとした。  どっちの名前を呼んだ?  いや、違う。    どっちを呼びたいと思った……?  二つの名が溶け合っていく。  声に出すたび、心まで、どっちのものかわからなくなる。  そんなアドニスを見て、ユリセスは――口角を、ねっとりと持ち上げた。 「ねぇ……俺と、ユリセス様、どっちが本当に好きなの?」  アドニスの瞳孔が開く。  気高く優しい騎士ユリセスが、微笑みかけてくる。 「んああ……ユリセス様ぁ……」    乱暴で残忍なユリセスが、身体を壊しにやってくる。 「ご……ご主人様ぁ……」    どちらも同じ人なのに――心はもう……。 「ご主人様ぁ……ご主人様がいいぃ……」  その言葉が唇からこぼれた瞬間、胸の奥がちくりと痛んだ。  痛いはずなのに――不思議と、気持ちよかった。  ――……ああ、僕は、もう。  痛みさえも、快楽に溶けていく。  まるで縛られたように、アドニスは両手を差し出していた。  ユリセスに、全部を壊して欲しいと、心のどこかで――願っていた。

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