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第七章 愛という名の赦し 9 ⭐

「ふふふっ……あれ? 気高くて、優しくて、真面目なユリセスはどうしたの?」 「あえぇ……ご、ご主人様……ご主人様ぁ……」 「ん? 俺は嫌いなんじゃなかったの?」 「ご主人様ぁ……ごめんなさい……お仕置き……お仕置きして……ください……」  言葉の意味も忘れるほど、ただ求めたかった。  喉の奥から舌がだらりと垂れ、息が漏れるたびに唾液があふれた。    ユリセスは、アドニスの顎を指先で掴み――  逃がさぬように、ぐいっと上向かせた。   「どうして?」    ユリセスの目は、凍るように冷たかった。  けれどその奥で、情欲だけが赤く、静かに燃えていた。  視線に射抜かれた瞬間、アドニスの喉がひくりと鳴る。  息が詰まりそうになりながら、震える声で答えた。   「ふえ……えぅ……ご、ご主人様じゃなくて……ユリセス様に……心が傾いてしまったから……」  ユリセスは、唐突にふっと笑った。 「ふふふ……わかったよ」  それだけを告げると、アドニスの腰元へと顔を近づけた。 「正直に話したアドニスに、『ご褒美』をあげるね」  下着をおろされると、肌が冷たい空気に晒され、ゾクリと震えた。  とろけた蜜で濡れた部分は、余計にひんやりしていた。  ユリセスが小さく笑った。 「やらしい……」  その一言で、身体の奥がじわりと熱くなる。  もう、身体はユリセスの言葉ひとつで反応してしまっていた――。    屹立にユリセスの顔が近づく。  ふっと息を吹きかけられた瞬間、何をされようとしているのか理解した。 「だ、ダメッ! ご主人様! や……あああああっ!」    アドニスの屹立は、温かく湿ったユリセスの口内に包まれていた。  じゅぷじゅぷ……と卑猥な音が響き、腰が勝手に浮いてしまう。  ――ダメ。こんなの、ダメなのに……。  口内にいるのが、ユリセスだという現実。  その事実だけで、全身が痺れるほどの快感が押し寄せる。  アドニスは、たまらず手で顔を覆った。  でも、それは羞恥ではなく―― 「んひっ……ひっ……だ、ダメッ……」 「アドニス、ちゃんと見て」  ゆっくりと手を降ろすと、ユリセスはニヤッと微笑みながら、再び屹立を口に含む。 「あ……あああ……ああっ……」  端正な顔立ちのユリセスが、赤い舌を這わせて、下から上へと舐め上げる。  その視線がアドニスを挑発するように突き刺さり――  根元まで頬張ったまま、強く吸い上げた。 「ふうううっ! ご、ご主人様ぁ! 汚いっ! 汚いですっ!」 「ふふ……アドニスは綺麗だよ……。誰にも穢されてないからね……」    まるで宝物のように、ユリセスは屹立を愛おしそうに咥え、頭をゆっくりと上下させる。  ――もう、限界だった。  目の前で、誰よりも美しい――彼が、こんなにも慈しむように、屹立を愛してくれる。  快楽と羞恥と、甘やかな呪い。  全部が溶けて、アドニスの屹立を、一斉に追い詰めてくる――。   「出るぅ……ご主人様……出るからぁ……」 「出して。アドニスの全部……ちょうだい」  ユリセスの舌使いが、急に激しさを増した。  囁くような優しい音が、じゅぷじゅぷ……といやらしい水音に変わっていく。  自分の恥ずかしい香りが、空気に濃く漂っているのがわかる。  五感すべてが、ユリセスに侵されていく――。  逃げ場なんて、もうどこにもなかった。 「でりゅぅっ……でひゃうぅ……」  呂律も回らなくなって、足がガクガクと震え出した。  ふと、目が合うと、ユリセスはニヤッと笑った。 「……アドニスのやらしい味、俺の口に、全部覚えさせて?」  ユリセスの興奮した低く掠れた声。  それだけで、目の前がパンと弾けた。  ――覚えさせる……? ご主人様の口に……僕の……僕のものを……?    ユリセスが自分のものになる。  自分だけのものになる。    じわじわと脳を溶かして、身体の奥から熱がせり上がってきた。 「くひぃぃいいいいいいい!」  腰が浮き上がり、身体がビクビクと震える。  ユリセスの口内に勢いよく発射した。    視界も脳内もすべて真っ白に染まった。  息をするのも忘れるほどの快感が続いて、震えが止まらなかった。    ユリセスは満足げに喉を鳴らし、ごくりと飲み干した。 「はぁ……アドニスはこんな味なんだ……甘くていやらしい……」 「ふぇ……はうぁ……ご主人様ぁ……」  くす、と笑ったユリセスが手を引く。  ――次は俺の番だよ。  そう言われた気がした。  おずおずと膝をつき、ユリセスの腰紐を解く。  途端、凶悪な欲棒が(あらわ)になった。  ――これが……ご主人様の……。  ……香りが脳を焦がす。  鼻をついた匂いに、舌がひくついた。    思わず、ごくりと唾を飲む。  想像でしか知らなかったそれが、いま目の前にある。  アドニスのよりもずっと太く、へそに届きそうなほど長くて――。  先端は鋭く(とが)り、微かに鼻をつく淫靡(いんび)な匂いを放っている。  息を飲む間もなく、喉が自分から空腹を訴えていた。 「ふうぅっ……!」  頭が真っ白になる。  そして、耳元でジュブジュブといやらしい音が響き始めた。  口内が熱を帯び、心がじわじわと満たされていく。  ――咥えてる。僕が、必死にしゃぶってる……。  徐々に、遅れて脳が追いついた。  すると、ユリセスの指がそっと頭を撫でた。 「アドニスは偉いね。村人を守るために、一生懸命演技してるんだもん」  その声は、ひどく優しかった。    でも、目が――笑っていない。   「……え……」    唇が震えた。    ご主人様が、僕を見ていない――。

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