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第七章 愛という名の赦し 11-1 ⭐

 アドニスの心は、すでに粉々に砕けていた。  縋れるものは、ただひとつ――ご主人様の、熱だけだった。    ――人を、神を、捨てた。   「辞める? 本当かな?」  ユリセスの慈悲のない声が、新しい主に仕える忠誠の誓いを試すかのように聞こえた。  その声を前にして、アドニスは――ただ、頷くしかなかった。   「辞めます……ご主人様のそばに……います……」  アドニスのだらんと垂れた舌を、ユリセスが指で掴んだ。  そのまま、指の腹で円を描くように舌をなぞる。 「アドニス……」  ユリセスの瞳は優しかった。  春を待っていた蕾たちが、一斉に花を開き始める。  温かくて、すべてを受け入れてくれる――  まるで、信仰の中心に描かれたセレア様のようだった。 「……俺の犬に、なってくれる?」  屈辱的な言葉――なのに、アドニスには、それが希望の言葉に聞こえた。  遠い昔、厳しい修業を乗り越え、ようやく神官として名が与えられた時のような嬉しさが、込み上げてくる。    ――ユリセスの犬になる。  アドニスが喉から手が出るほど欲しい言葉だった。 「なりますっ! ご主人様の犬に……犬になりますっ……!」  アドニスは、誓いを捧げるように――ユリセスの肉棒を咥えた。  音を立ててしゃぶり、根元から先端まで舌で舐め上げた。 「いい子だね……アドニス」  ユリセスは優しく頭を撫でると、何かを取り出した。  首元にユリセスの手が近づくと、革の香りがした。 「ほら、アドニスにぴったりだよ……かわいい」  カチリと音がして、革が肌に馴染む。  それだけで――アドニスの世界は、完成した。 「ああう……あう……」 「これで、もう俺の犬だよ。アドニス」 「ご主人様ぁ……ご主人様ぁ……」  胸が切なくなって、涙が止まらなかった。  もう二度と離れられない――その確信が、静かに「幸せ」へと変わっていった。 「ご主人様……この身をもって……ご奉仕……させてください……」  願うようにそう口にした時には、すでに身体が正直に反応していた。  アドニスの屹立は、幸福に包まれながらいきり立ち、悦びの蜜をこぼしている。  ご主人様の熱い啓示を、今か今かと待っていた。

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