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第七章 愛という名の赦し 12 ⭐

「ご、ご主人様ぁ……ごめんなさい……もう……もう我慢できないんです……ご主人様が……僕の中に欲しいんです……どうか……赦してください……」  ぐいっとリードを引っ張られた。 「犬のくせに、吠えるなんて……行儀が悪いな」  冷たい瞳、冷たい声。  身体も心も堕ちていく瞬間に、悦びを覚えてしまった。   「へううっ……!」  先端から蜜がこぼれた。  もっと、もっと命令してほしかった。  (けな)し回して、人の尊厳を粉々にしてほしかった。  ユリセスは黙って立ち上がると、懺悔室の端の方へ身体を向けた。 「来い」  リードを引っ張られて、立ち上がった瞬間――。 「おい、犬は立たないだろ?」  舌が勝手に垂れ落ちる。  膝をつき、手を床に添えた――犬としての姿が、あまりに自然だった。  一歩一歩進む度に、手足が犬のように動いていく。  自分が犬になっていく悦びが、静かに心に沁みてくる。    床が冷たい――まるで自分を卑下(ひげ)するような冷たさで、身体の奥が戦慄(わなな)いた。 「立っていいよ」  ユリセスに赦されて立ち上がると、目の前に小さな子窓があった。  懺悔する者の手を合わせるだけの、大きさの子窓。 「ねぇ、欲しい?」  突然、臀部にユリセスの灼熱を当てられて、身体に電流が走る。  蕾がユリセスを招くように、入口をひくひくさせた。 「ほ、欲しいですっ……! ご主人様欲しいっ!」  ユリセスはくすっと笑うと、アドニスの耳元で囁いた。 「でもね、俺の言うことが聞けなかったからお仕置き」 「うう……えっ……ご、ご主人様っ!」  アドニスの太腿にひやっとしたものがあたる。  それは細い鎖のようで、ユリセスはアドニスの屹立にきつく巻き付けた。 「ご、ご主人様……な、何を……!」 「ふふっ……見て」  下を向いた瞬間、息が止まった。  額を伝う汗が、冷たく首筋をつたう。  見慣れた銀の光が――自身に巻きついていた。  神官だけが身につける神の加護そのもの――アドニスにとっては命に等しい――  ――フェルメンだった。 「神官辞めるんでしょ? じゃあ、いらないよね」 「そ、それだけは……!」 「ははっ……何言ってんの? お前は、もう犬だろ?」  怒気を孕んだトーンに、アドニスの身体が震える。  ――神聖なフェルメンを……僕のもので穢してしまう……。  その瞬間、先端から蜜が溢れるように流れ出した。 「だ、ダメッ……だめぇっ……!」  身体は言うことを効かず、蜜はゆっくり青い石に滴り落ちた。 「ねぇ、アドニス。そこから何が見える?」  追い打ちをかけるように、ユリセスは子窓の高さまで頭を押さえつけた。  瞬時に瞳孔が開き、心臓が止まった気がした。 「何が見える?」  整然と、凛として、そこに在る。  慈愛の神――けれど、信仰を裏切った者には、微笑まない女神。  セレア様の像が、何も言わずにこちらを見ていた。  ――赦しではなく、断罪の目で。   「お、お赦しを……ご主人様……」 「なに?」 「こ、ここは……やめ……やめて……くださ……」 「今更何言ってんの?」  ユリセスがゆっくりと、張型を抜いた。 「ひっ……! お、お願いです……! ご主人様っ……!」    言葉とは裏腹に身体が疼く。  空になった肉壺が、本物の肉棒を求めてひくつく。  灼熱の免罪符がアドニスの臀部に擦りついた。   「アドニス……今度はお前の番だよ。セレア様の前で、神を捨て、ご主人様に忠誠を誓え――懺悔しろ!」 「お赦しを……! ご、ご主人様……ああっ……ああああっ!」  アドニスの懺悔も祈りも、神には届かない。  代わりに与えられたのは――ご主人様の赦しという名の、淫らな免罪符だった。  

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