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第48話 付き合ってあげる(8)*
「全部、俺のものになって」
光輝は奏汰の耳元で吐息を吐くように囁いた。その瞬間、奏汰は全身が泡立つような感覚に包まれた。
「あっ」
そのまま耳をくすぐられるように舌で撫でられ、奏汰の体から力が抜ける。
「ま、待って、コウくん…」
「待たない」
光輝は先ほどとは逆に奏汰をベッドに押し付けた。奏汰は驚いていたものの、さして抵抗もせずに押し倒されてくれた。光輝はそのまま奏汰の部屋着のズボンとシャツを剥ぎ取った。それも嫌がられなかった。
「奏汰さんのこと全部くれる?」
「う、うん……」
奏汰の息が荒くなる。下着も脱がして裸にした。奏汰の胸が大きく上下している。その肌に手を滑らすと奏汰は小さく吐息を漏らして体をよじらせた。心臓に手を当てると飛び出すのではないかというくらいに大きく脈を打っていた。
(興奮してるんだ…)
光輝もその様子に体が熱くなってくる。自分に身も心も委ねようとしてくれる生物が可愛かった。
「全部見せて。奏汰さんの恥ずかしいところもいやらしいところも。見せたくないところ、俺にだけは見せてよ」
光輝は奏汰の胸を撫でると手のひらに充血して尖ったものが触れた。びくりと奏汰の体が震える。
「興奮してるの?硬くなってる」
奏汰の胸の尖りを押しつぶすように手のひらで転がす。
「あっ」
はっきりと奏汰が嬌声を口にした。もっと、と乞うてるようだった。
「奏汰さん…。もっと声聞かせて…」
「……っ」
奏汰の声にならなかった吐息が聞こえる。もっと奏汰が欲しくなった。手に入れたかった。くれるというなら全部。
噛みつくように奏汰の首筋を吸った。奏汰の白くて薄い肌は強く吸わなくてもすぐにうっ血した。しかし光輝は力を弱めなかった。そのまま鎖骨にも胸にもたくさんのあとをつけていく。怪我をしたような赤い跡がいくつもついた。その間も奏汰は乳首を摘みあげられたり吸いつかれて、快感から嬌声まじりの声を吐いた。
「はぁっ、はっ、あ…!」
「気持ち良い?」
じっと見つめられ、奏汰はうんと言おうとした。
「う、んふっ」
だが、その口を唇で塞がれた。光輝の熱い舌と息が入ってくる。腔内を貪るように犯されて息が苦しくなった。けれど、その息苦しさがどこか気持ちいい。
「う、んん───!」
奏汰の体が弓なりにしなる。光輝は奏汰の口を塞いだまま奏汰の股間をまさぐった。そこも既に硬くなっていて先端から雫が滲んでいた。
「濡れてる…」
光輝が呟くと、奏汰は思わず顔を背けるように横を向いた。光輝はすかさず奏汰の顎を掴む。
「だめだよ、こっちちゃんと見て」
奏汰の顔をぐいっと正面に向かせる。奏汰は困ったような目を向けてくる。その瞳が期待で潤んでいくのを感じ取り、光輝は思わず笑いたくなる。自分の一挙一動を待ち焦がれて翻弄されるのが面白いし可愛い。
「コウくん……」
奏汰はふいに囁くように光輝を呼んだ。その甘えきった声に頭が痺れる。可愛すぎて壊してしまいたいような衝動に駆られた。
「ねぇ、自分で足あげて開いてみせて」
ドキドキした。次はどんな痴態を見せてくれるのかと思うと心臓が高鳴る。自分も変な趣味に目覚めたのかなと思ったが、そんなこともうどうでも良かった。
「恥ずかしい…」
と恥じらいを見せる奏汰になぜか苛立ちを覚える。しかし、この苛立ちはスパイスでしかなかった。
「恥ずかしいのが、好きなんでしょ」
強引に奏汰の足を持ち上げ体を折りたたむようにすると、奏汰の腕を取り足を抱えさせた。
「ちゃんと開いて。見ててあげるから」
奏汰は荒く息を吐きながらそろっと長い指で自らの窄まりを引っ張って開いて見せた。
「めちゃくちゃエロ」
奏汰は恥ずかしさで情けなく唸る。
「触って欲しい?」
と問いかけると顔を真っ赤にしながらこくこくと頷く。
「ちゃんとお願いして、奏汰さん」
光輝は会陰の辺りを指でなぞりながら、奏汰の耳元に息を吹きかけるよう囁く。
「あっ、触って、触ってくださいっ」
そんなことで感じてしまうのか、奏汰は体を震わせた。
「うっ、あっ!」
光輝はローションで濡らした指で奏汰に指を射し入れた。奏汰が鼻にかかった甘い嬌声を上げる。その声に光輝の頭はどこかじんじんとした。
奏汰の好きなところも好きな触れ方もまだ覚えていた。必死になって覚えた行為だった。けれども、あの時は早く奏汰を手に入れたくて、奏汰に捨てられたくなくてただただ焦燥感で奏汰に触れていた。奏汰はそんな光輝に気づいていたし、光輝も奏汰に気付かれたことに気付いていた。それが互いに苦しかったのに、目を逸らした。
今は違う。ただただ楽しい、と思った。
「あ、あ、コウくん、そこ気持ちいい…」
奏汰の好きな場所を指で断続的に押し上げる。イッてしまわない程度の優しい力を与えてやる。そこを刺激しながら、たまに性器の方にも触れてやると奏汰は声を上げながら体を震わせた。
「そこってどこ?」
光輝はわざと指の動きを止めた。奏汰の性器は張りつめていて、もう一息で達してしまいそうだった。
「お尻…のナカ…やめないで…」
すがるような声と顔で奏汰が言った。
「違うでしょ。奏汰さんが言いたいこと、ちゃんと言ってみて」
奏汰の呼吸が一層激しくなる。光輝の言葉に興奮しているようだった。
「………やだ……」
「大丈夫だから、奏汰さんの恥ずかしいところ全部俺に見せて」
「う…おまんこもっといじってください…」
奏汰は泣きそうに顔を歪めた。羞恥心からか耳まで赤くしている。もう光輝はそんな奏汰を見ても引いたりしなかった。可愛い、とだけ思う。虐めてあげたい、と思ってしまう。
「変態」
光輝が嘲笑するように笑いながら奏汰を見つめた。その瞬間に奏汰の全身に電気を通したようにゾクっと快感が駆け巡る。
「あっ、ごめんなさい…変態でごめんなさい…悪い子でごめんなさい…」
奏汰はほとんど無意識に謝罪を繰り返した。そのたびに奏汰の体は気持ちが良くなる。自分でも嫌だ。けれど、気持ちがいいのだ。どうしようもなく咎められて謝るのが気持ちが良い。惨めで恥ずかしい姿をさらけ出すと興奮する。
「奏汰さんは悪い子なんですね。じゃあ、お仕置きしないとだめですね」
「あ──っ!」
奏汰のナカをぐっと押し上げると奏汰の体が大きくしなった。
「やっ、きもちいい、きもちいい…」
光輝が指を動かす場所は、もう三本の指をあっさり受け入れて柔らかくうねっていた。
「これ、欲しい?」
もういいか、と思い光輝は自分の下着をずらした。そして奏汰に先を押し付ける。簡単に飲み込まれてしまいそうだった。
「欲しい、コウくんのおちんちん欲しい…」
奏汰の目が媚びるようにとろけていくのを光輝はぞくぞくしながら見つめていた。
「じゃあ、今度はこれでお仕置きしてあげる」
光輝は自分の性器を奏汰の中に押し進めた。ぐちゅっと生々しい水音を立てながら繋がっていく。半ばまで入った時、奏汰は悲鳴のような声をあげた。
「あっ!」
奏汰が欲しいものはもう分かっていた。ことあるごとに自分は良い人ではない、優しくないと言っていた奏汰。厳しい祖母に育てられて良い子でいなくてはいけなかった奏汰。
この人は弱い。すごく普通の人だ。それどころか、男が好きで男に犯されたいなんて思っていて虐められると悦ぶような人には言えない変質的な趣味まである。自分からしたらそんなの仕方ないじゃんと思えるようなことでも、彼にとってはずっと一大事だったのだろう。
「奏汰さん、俺の前では良い子じゃなくていいですから」
しかし、別にそんなこといいじゃないか、と思う。奏汰は誰にも迷惑をかけていない。誰にも迷惑かけないように生きてきたのだろう。
「そんな奏汰さんが好きです。好きになりました」
「俺も、好き、君が好き」
奏汰は体を揺さぶられながら熱に浮かされたように応えた。
「だから全部見せて。奏汰さん全部見せて」
光輝は抽送を止めると奏汰の体を抱きしめた。熱を持った首筋から何かいい匂いがする。奏汰はいつもいい匂いがするが、これは香水の匂いではない。奏汰の匂いだと気づいた。奏汰の体は汗でしっとりと濡れていた。あとで拭いてあげないと風邪を引いてしまうと関係のないことを考えた。
「ぜんぶ、見てて……もっと突いて、俺の恥ずかしいところお仕置きして…」
「ふ、奏汰さんってほんとやらしいね」
光輝は一度、奏汰の首から胸、腰や陰茎を確かめるように撫でた。奏汰の体が魚みたいに跳ねる。相手を制して満たされるような気持ちを感じながら光輝は再び体を動かした。
「ああっ悪い子でごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
奏汰は光輝が腰をぶつけている間、ずっと喃語のように謝り続けた。
「いいですよ。どんな奏汰さんでも」
「ずっと、付き合ってあげる」
奏汰の体が一度、激しく痙攣したのち、弛緩してベッドに沈んだ。
「その代わり俺以外に見せちゃだめですよ」
光輝は液体のようになってしまった奏汰の耳元で甘ったるく囁いた。
「ふぁい…」
奏汰は光輝の言葉を理解していたのか分からないが、舌ったらずで返事をするとそのまま気絶するように眠ってしまった。
光輝もまた疲れて奏汰の隣に横になる。ふわふわの髪の毛に触れる。なぞるように頬や唇にも触れた。そのままずっと奏汰の眠りを妨げない程度に色々な場所を触り続けた。
光輝は寒さに身震いして目を覚ました。あれから奏汰の体を綺麗にしてあげて下着とシャツを着せてやった。しかし奏汰はうーんと唸っただけで全く起きる素振りがなかった。
いつの間にか光輝も眠ってしまったが掛け布団を奏汰に全て取られていて、冷房の風が下着一枚で眠ってしまった光輝の体を直撃していた。とりあえずベッドから降りて少し冷房の温度を上げた。
そういえば月食はどうなったのだろうか。スマホで時計を確認すると既に三時を回っていた。光輝は慌てて窓を開け、半身をベランダに乗り出して月を探した。そして、ぎょっとする。爛れたような真っ赤な月が浮かんでいた。
天体にあまり興味がない光輝は、月食とは月が欠けていくだけのものだと思っていた。不吉な赤黒い輝きを放つ月はかさぶたのように夜空に張り付いている。
「奏汰さん、月が赤くなってる」
奏汰を揺さぶってみたが、うーんと寝ぼけた声を出すだけで起きる気配がない。光輝は仕方なく奏汰が使っているカメラを借りて月の写真を撮った。
ミラーレスカメラは使い慣れないが、奏汰に少しだけ撮り方を教えてもらっていた。ファインダーを覗いてできる限りズームをしてシャッターを切る。
上手く撮れているか分からないから、何枚も何枚もシャッターを切った。
ああ。燃え尽きてしまえ。
開け放った窓から光輝はまるで月を狙撃するようにシャッターを切り続けた。
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