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2.謎のイケメンさん

 ――父には本妻が居て、母という愛人の他にも、何人も愛人が居るみたいだし。生ませるだけ生ませて、きっと、オレに対する扱いみたいな感じなのだろうと想像がつく。お金はあるから、いくらでも、面倒も見れるって……。  ……面倒みるって、そういうことじゃないと思う。お金だけで全部片付けんなよなと思う。  αだったら引き取った、と母に言っていたから。αの一族が欲しいのかもしれない。  近年、αの出生率が、さらに下がっているらしい。Ωからしかαがうまれない、は言い過ぎかもだけど、それに近い事態ではあるらしい。  別にαなんて居なくなってもいいのに。全員βでいいじゃん。と思ってしまうけど。  まあでも、ほんとに良かった、オレ、αじゃなくて。  危なかったよね、母さんと引き離されて暮らすことになっていたかもしれない。病弱だった母さんと、最後まで一緒に居れたことが、オレの人生で、一番良かったことな気がする。  父には、オレはβだと言ってある。そう言った時の、がっかりした視線、忘れられない。  まあオレは、ごくごく普通のβっぽいルックスをしているから、Ωなんじゃないのかとか、これっぽっちも疑われなかったけど……。多分、αなら引き取ったけど、Ωだったらきっと、どこぞのαに嫁がされたんじゃないかと思うので、ほんと、嘘ついてて正解。どんなに、無価値みたいに見られても。  ――えーと……だから。オレは、その父の、イケメンっぷりが大嫌いで。  何人か出会ってきたαは、好みはぬきにして見れば、軒並み顔は良いやつが多い。でも偉そうで、自己中心的で。まあ、控えめに言っても、大嫌い。  絶対番になんてならないからなー! と誓っている。  オレは、まず医者になる。医者になって、患者を診ながら、どこかの製薬会社とか研究施設とかで薬の開発に関わるメディカルドクターになるのが、夢。  Ωに必要な薬。今は高価な様々な薬を、安価に誰にでも手に入るようにするんだ。Ωが苦しまなくても済むように。ヒートの事故や、無理矢理の行為で番になってしまったΩが、副作用なんて無く、番を解消できるようにする薬。しかも、今みたいな高くない、安い薬を。そういうのを、絶対に作る。  その為には、オレは、大学でやまほど勉強しなきゃいけないんだ。  ――てことで。その夢の為なら、オレがちょっと体を売る位、どうでもいいことだと、オレは判断したのだけど。とにかくほんとに、清らかでいたいっていう願望もないし、オレ自身が良いんだし。いいよね。うん。  で、目の前のイケメンに、話が戻る。  なんなの、このイケメン。邪魔なんだけど。オレの通路をなぜ塞ぐ??  この身長でこの顔で、この雰囲気だと、間違いなくαだと思うんだけど。  ……けど、なんか、ちょっと、雰囲気や声色は、緩い感じがするけど。 「すみません」  オレは、今度こそ、イケメンがいない方に足を踏み出したのだけれど。 また止められた。 「あのさあ、君ね」 「……?」 「あの店で働こうとしてるの?」 「――」  何でそんなプライベートなことを、こんな会って数秒の人に言わねばならないのだ。 「いえ、違います。となりのそろばん教室に入ろうと」 「――潰れてるみたいだけど」 「じゃあそっちの病院に」 「じゃあって何だよ」  イケメンが、クックッ、と笑ってオレを見下ろす。

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