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4.高貴な紫

「今、あそこで働こうと思ってたってことはさ」 「……それ、ノーコメントで」 「お金が必要、てことだよね」  むむ。何かあやしい詐欺の……って、こんな人がそんなことするかな?  謎だ。 「お金が必要ってことで、あってる?」  全然分からないけど。 「くれるんですか?」  思うままに質問してみると、北條さんは、苦笑した。 「ここで、あげるって言ったら、またオレ怪しい人になりそうだけど……」 「――北條さんは、お金持ちですよね?」 「まあ、そうだね」 「――じゃあ僕から取ったりはしないですよね?」 「うん。そんなことで犯罪者になってる暇はないね」  まあ、そうだよね。それはまあ分かる。僕ごときのお金とっても。  いまだ何の話がしたいのか分からないけれど、まあ話してもいいかと思うことだけ返すことにした。 「……まあ正確には、多少は持ってるんですが、それを使うのは、自分が働けない時かなって思ってるんです」 「……?? ちょっと複雑そうだから、そこはスルーするね」  え、結構大事なとこだったんだけど、スルーされた。  なんかおかしくて、ふ、と笑ってしまう。  数秒黙ってた北條さんは、少し眉を顰めて、首を傾げた。 「――ていうか、君さ。あそこで働いてすら、使いたくないお金を、持ってるってこと?」 「スルーするんじゃなかったんですか」  ますます笑ってしまうと。 「いや、気になるでしょ。予想がつかないことって。スルーしようと思ったんだけど、無理だった」  北條さん、面白いな。クスクス笑ってしまう。 「そんな大したことじゃないですよ――大嫌いな父から貰ったお金は、そんなほいほい使いたくないんです。できたら、少しも使わず、医者になったら叩き返したいし、父の持ってる不動産に住んでるのも、実は毎日相当ストレスで……」  まあ全然関係ない人だからいいか、と思って、オレは、流れるように父の悪口を言った。  すると、んー、と綺麗な眉を潜めて、北條さんは笑った。 「複雑そ……」  苦笑しながら言って、それから、その綺麗な手を、自分の口元にあてて、ん、と少しの間考えてた。

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