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56.居酒屋で

 それから、喫茶店に長居して二人で読書。医学書読みながら、話せるのは助かる。夕方になってから、行きたいと思ってた居酒屋に移動した。 「今日は、夕飯、一緒でなくていいのか?」 「オレが作れるっていう日に、早めに瑛士さんに連絡入れることになった。で、十七時迄に連絡が無かったら、行けないってことにしようって決めたから」 「ふーん。ていうか……そんなにお前のご飯食べたいのか、あの人」 「うーん……? 瑛士さんが食べてるものって、すごくキラキラしておいしそうなものだからさ。オレの作る普通が珍しいのかも……」 「いいもんばっか、食ってそうだもんな」 「そうなんだよね。なんかほっとするって、言ってたよ」 「――凛太の飯は、うまいとは思うけど」 「ありがと。母さんの料理、褒められてるみたいで嬉しい」 「高校生の時に、亡くなったんだよな?」 「高二の時。中学くらいから、体調悪いことが多かったから。習いながら作ってた」 「――偉い」 「まあ必要に迫られてだから」 「買って済ませる奴もいると思う」 「――ふふ。まあ……作った方が、おいしいし、塩分とか抑えられるし」 「まあな……つか、今めちゃくちゃ塩分取ってるけどな」 「だね」  ふふ、と笑ってしまう。  目の前には、たくさん頼んだ揚げ物や、和風のおかず。レビューで絶賛されてたので、来てみたかったんだけれど――これは、たまに食べるからおいしいんだと思う。毎日食べてたら、塩分とか油分取りすぎ。  そう思うと、母さんからのレシピは、本当に体に優しくて、おいしいと思う。和食だけど、塩分は控えめになるように工夫されてるし。 「ん! 竜、この梅サワーおいしーよ。さっきのぶどうサワーもおいしかったし」 「はいはい。良かったな」 「いくらでも飲めそう~」 「ほどほどにしろよ」 「はーい」  お酒はちょうどいい。濃すぎず、適度に甘くてすっきりしてる。おつまみだから塩分多めなのかも。もう少し塩分おさえれば、この料理も瑛士さん、好きそうな気がする。 「お前、飲むなら、先食っとけ、おにぎり、具は?」 「何食べよ?」 「オレはこっちのお茶漬けがいいけど」 「あ、ほんと。おいしそう……どっちもたのもー」 「いや、オレは締めにする」 「え、じゃあオレも……」 「お前はどんな味か覚えときたいなら飲みすぎる前にしとけ」 「そんな酔わないってば。瑛士さんのホットミルク作らなきゃだし」 「――……」  竜はちら、とオレを見て。 「それ毎日やんの?」 「分かんないけど、眠れるなら、いいかなって。まだ試し始めたとこ」 「――ふーん……」  竜のそんな返事に、「なに?」と聞くと。 「お前、少し気を引き締めろ」 「――……はい」  なんだかものすごくまっすぐに、真剣に言われて、一回グラスから手を離して、太腿の上に置く。 「居心地いいのは分かったけど――αなんだからな。ずっと一緒にいるなら、チョーカーつけろ」 「――うん。くれるって、言ってた」 「じゃあ、早くもらえ」 「うん。分かった」  オレは、竜を見つめ返して、頷く。 「事故ったらしゃれんならないだろ。とりあえず、噛まれなければ、まあ、多少何かあっても、まあ」 「……何かって?」 「まあ……何か?」 「――変なこと、考えてる?」 「そういうの嫌なら、もっと離れてろ」 「――無いってば。オレにそんなことしなくても、瑛士さん、割り切った関係の人居る、とか言ってたよ。大人だからさ。オレみたいなの、相手にするわけないじゃん」 「そう思う?」 「そうとしか、思わない」  ふーん、と意味ありげに言って、竜はオレを見つめる。 「まあ……オレは、お前は無いけど」 「――失礼。いちいち言わなくて良くない? オレだって、竜なんて無いもんね!」  グラスを持って、ぐい、と飲み干す。 「はーおいしー」 「……お前、帰れるくらいにしとけよ。送んねーぞ」 「帰れますのでご心配なくー」  と。楽しく楽しく飲んだ結果。 ◇ ◇ ◇ ◇ 「ごめんなさい……」 「アホ凛太」  なんだか足元おぼつかず、タクシーで送って貰うことになってしまった。  車に乗ってちょっと落ち着き、ごめんねぇ、ともう一度。 「おにぎり美味しかったから。こんどお昼のおにぎり、竜の分も作ってくね」 「焼き鳥と、おかかチーズのがイイ」 「おっけーおっけー。教授のとこの、レンジ借りようねー」  なんだか楽しい。あはは、と笑っていると、ポケットで電話が震えた。 「もしもし、瑛士さん?」 『凛太? ……酔ってる? 平気?』 「あ、分かっちゃいますか? もうすぐ帰るので大丈夫ですよ」 『オレ今から帰るとこだから、迎えに行こうか?』 「車ですぐなので、大丈夫です」 『分かった。気を付けて』 「はい」  電話を切ると、竜と目が合う。 「――酔ってるのバレちゃった。そんなに、声、変?」 「まあ……バレるよな」 「今から帰るとこなんだって……まあ別に怒られるとかじゃないけど」 「まあな。酔ってるだけならな」 「――?? どういう意味??」 「さあ。……ちょっと試していいか?」 「――何を?」 「まあ、もし、会ったらってことで。お前は気にしなくていいから」 「……?」  何を試すんだか分からないまま。  ふー、と息をついて、背もたれに頭をついた。早く酔い冷めないかな……。車に乗る前に竜が買ってくれた水のペットボトルで、頬を冷やした。

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