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72.攻撃っぽい。

 ホットミルクがちょうどいい温度になった頃、瑛士さんがやってきた。今日もまたおしゃれなパジャマだ。瑛士さんのパジャマは毎日変わるんだけど、でも同じお店のなのか、手触りは一緒。デザインが違うだけみたい。……手触りっていうのは――――寝る時一緒だから。どうしても毎日、触れてるから分かるんだけど。ううん。普通は、人のパジャマの手触りって分かんないのにな、とおかしくなりながら、瑛士さんを迎え入れていると。 「凛太凛太」  楽しそうに呼ばれて「はい?」と近づく。 「これあげる」 「なんですか? ……パジャマ??」  紙袋の中を覗くと、瑛士さんに触れる時と同じ感触。 「手触りいいって言ってたでしょ。昨日その店の前を偶然通りかかったからさ。着るか分かんないからとりあえず二着買ってきてみたんだ。洗濯終わったから」 「おそろいです、か?」 「うん。いつか、着たくなった時でいいよ。今みたいなのが楽なら、着なくてもいいし」 「え、何でですか?」  オレが眉を顰めて見上げると、瑛士さんはちょっと苦笑した。 「ああ、ごめん、おそろいは嫌かな?」  そんな風に聞かれるからますます眉が寄ってしまう。 「違います……あの……今、着ちゃだめですか?」 「――――」  そう聞いたら、瑛士さんはふとオレを見て、それから、軽く握った手を口元にあてて、着ていいよ、と頷いた。 「じゃあ、着てきますね」 「――うん」  口元の手はそのまま、瑛士さんは頷いて、微笑んでくれた。  脱衣所で、着ていた服を脱いで洗濯機に放り込んで、貰ったパジャマの内、明るい紫のを着てみた。 「わー」  着心地、めちゃくちゃいい。気持ちいいな、これ。  鏡で映すと、ふと、止まる。  瑛士さんとお揃い。瑛士さんの瞳の色。  ……なんだろ。なんかくすぐったいな。  人とおそろいなんて着ること、ないからかな。   着終えてリビングに戻ると、なんでか立ったままだった瑛士さんはオレを見て、ちょっと首を傾げた。  ……似合わない?? ってまあそうかも……と、思って、脱ごうかなと思っていると。近づいてきた瑛士さんに。 「ごめん」  そう言われて、ごめん? と思った瞬間。  大きな手がオレの方に伸びて来て、そのまま、すぽ、と瑛士さんの胸の中に収まってしまった。 「えい、じさん……?」 「――――なんだかなぁ」  大きな手が、オレの後頭部を覆うみたいに。そのまま、ぽんぽん、と頭を軽く叩かれる。 「凛太、可愛いな」  …………また言ってる。 「似合うね」 「そう、ですか……? ……ていうか、瑛士さん、あの」  瑛士さんの腕に手をかけて、ちょっと離れる。 「……瑛士さん、オレのこと、子供か何かかと思ってるのだとは思うんですけど」 「――――」 「……ちょっと、近い、です」  あんまりむぎゅむぎゅと抱き締められるのは、なんだか、ちょっと……。  何の意味もないのに意識しすぎ、と思われちゃうかもだけど、でもなんか。  ……体の奥が、痛いから。 「子供なんて思ってないけどな」 「弟って言ってましたっけ……?」 「……いや。違う」  そう言ったきり考えてるみたいな瑛士さん。  とりあえずオレは瑛士さんの腕の中を抜け出ると、「ホットミルク持ってくるので座っててください」とキッチンに向かった。瑛士さんは、髪の毛をかき上げて、なんだかそのままクッションに埋まった。……そういえばあのクッション、ずっとうちにあるけどいいのかな。  はちみつを入れてかき混ぜてから、瑛士さんの前のローテーブルにカップを置くと、瑛士さんが「ありがと」と微笑んだ。そのまま、瑛士さんの側、クッションに座る。 「パジャマ、ありがとうございます」 「うん。嫌じゃ無かったら、着てね」 「嫌な訳ないです」 「――――うん。まあ……そう?」 「うん。そうですよ。……ていうか、オレ、嫌って言いそうですか?」 「まあでもオレ、勝手にお揃いとかしてるし。嫌がる人も居るんじゃないかなと、少し思ったんだけど」 「瑛士さんとお揃いにするの、嫌がる人なんていますか……?」  うーん、と考えながらそう言ったら、瑛士さんは、また口元に手を当てた。 「瑛士さん、なんか今日そのポーズよくしますね? ポーズっていうか……??」  言ったオレに、瑛士さんは苦笑してオレを見つめた。 「なんか――凛太が可愛いなぁと思って……落ち着こうとしてる感じ、かな……」 「……?」  この人は何を言ってるのだろうか。謎だなあ……。 「いまのどれが可愛いんですか?」 「――さっきから全部ね。可愛いよ」  そんな風に言って、クスクスと笑う。 「……瑛士さん、それ、ほんとにやめた方がいいですよ」 「それって?」 「んー……可愛い可愛い攻撃、ですね」 「攻撃なの?」  くす、と笑う瑛士さんの瞳は、見惚れるくらい、本当に綺麗。 「うーん……攻撃っぽいですね」  なんか、それを言うのが瑛士さんだから、破壊力がすごいし。  そう思いながら言った言葉に、瑛士さんはクスクス笑って、オレを見つめる。ふんわりやわらぐ視線は、本当に優しくて。少し前まで知らなかった人だなんて思えないくらい、ほっとする。

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