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74.一家に一台?

「……あの、瑛士さん、好きって言いすぎです……照れます」  オレがそう言ったら、瑛士さんは苦笑しながら「嫌?」と聞くので、「嫌な訳じゃ……」と首を振る。  オレも好きとか言っちゃってる気もするけど……オレの「好き」に破壊力ないと思うけど、瑛士さんが言うと、破壊力がすごいんだもん。 「ごめん。言いすぎてる?」  こくこく、とめいっぱい頷いておく。  瑛士さんはちょっと笑いながらホットミルクを飲んで、その表面を見つめている。  ……ほんと、嫌とかじゃない。むしろ、好きとか可愛いとか、言われ慣れてないから、嬉しい気がする……。  でも嬉しいけど、言われ慣れてないからこそ、どうしていいか分かんないというか、焦るし、なんか照れちゃうし。 「でも勝手に出ちゃうんだよなぁ」  苦笑しながら瑛士さんがそんな風に言う。……なんかそんなセリフもまた、なんか心に色々来るような……。 「瑛士さんが与える影響力っていうか、なんか……分かります?」 「――影響力、ねぇ……」  くす、と瑛士さんが笑う。 「見た目と肩書とαのランクの影響力は知ってるよ」 「――――?……」  なんだか気になる言い方に、なんだか返事ができずに、瑛士さんを見つめ返す。 「全部外側だけどね」 「――外側……?」 「生まれた時から勝手に持ってる、かな」 「……」  見た目と肩書とαのランク。……まあ、確かに、外側って言ったらそう、だけど。 「瑛士さんって、それ、嫌なんですか……?」 「んー……別に嫌では無いよ……って、なんか愚痴ったみたいだよね。気にしないで、ごめん」  苦笑しながら、瑛士さんはマグカップを両手で抱えて、「あったかいね」と微笑む。 「……瑛士さん」 「んー?」  瑛士さんはもうすっかり切り替えたみたいな感じで微笑んで、オレを見つめ返す。  軽く言っただけで、別にもうオレの言葉なんていらないのかもしれない。でも。なんとなく。 「なんていうか……その外側の部分も、意識して最高の感じにしてるのは、瑛士さんの中身だと思うんですよね」 「――――ん?」  なんだか意味が分からなかったみたいで、クス、と笑った瑛士さんが首を傾げてる。 「見た目も、意識してちゃんと整えてるじゃないですか。筋肉だって、生まれてそのままだったらそうはなってなかったですし、絶対」 「――凛太、筋肉、好きだよね」  クスクス笑う瑛士さん。「だってすごいんですもん」と答えてから。 「ていうか、筋肉は分かりやすいから言っただけで……αのランクは確かに生まれ落ちて勝手になるものだから、もうそれはそういう運命なので置いておいて、でも瑛士さんは、そのランクでも、全然偉そうにしてなくて、優しくて……すごく素敵な人だと思うし」 「――――」 「瑛士さんと話してると、嬉しくなるのは、瑛士さんが使う言葉とか、笑い方が優しい感じとか。そういうのは、生まれ持ったものじゃなくて、瑛士さんが選んで使ってるものだし」 「――――」 「そういうのは全部、外側とは言わないと思います。全部ひっくるめて瑛士さんなので、外側が、とかじゃなくて……少なくとも、オレは、瑛士さんと同じ外側の人が居たからって、中身が全然違うなら、その人のことは別に好きじゃないと思うし」  ……途中から、オレは一体何を熱弁してるんだろうと思ってた。  着地点はどこ? 何が言いたくてこんなこと言い出したんだっけ。  ちょっと黙って考えているオレの前で、瑛士さんがカップをテーブルに置いて、オレをまっすぐに見つめてる。  えーと。なんだっけ。まっすぐな視線に焦ってくる。結局何が言いたかったか。えっと。  ……自分の価値は外側がメイン? みたいなことを、多少なりとも瑛士さんが思ってる気がして、そんなの絶対無いって思ってほしくて、だから、この話の着地点は――。 「オレは、今の瑛士さんの外側に、瑛士さんの中身が入ってくれてるから……好きなので」  うん。これだな。……オレもまた好きとか言っちゃったけど。でも好きだし。ここで言うのはいいよね。  よし、全部言えた。と思った瞬間。  ずっと黙って、口元を綻ばせたまま聞いていた瑛士さんに、すぽ、と抱き締められてしまった。 「わ……瑛士さん?」  瑛士さんの胸の中にすっぽり入ってると。  瑛士さんの筋肉に、触れる。とく、と心臓がまた少し、速まる。 「――――あー。なんか……ヤバ……」  やば??  そのセリフに、ちょっとパチパチと瞬きをしてから。 「オレ、なんか……へんなこと、言いました……?」  そう聞いたら、瑛士さんは、「言ってない」と言うと、そっとオレを離して、じっと見下ろしてくる。 「オレ、外側、頑張って保ってる?」 「はい。生まれただけじゃそうはならないと思いますけど」 「……そっか」  クスクス笑って、瑛士さんが、オレの頬に触れる。 「凛太」 「……?」 「なんかもうずっと家に居てほしいかも……はー。どーしよ、これ……」 「……どういう意味ですか?」 「家にずっと置いときたい」 「……? 一家に一台ってやつですか……??」  瑛士さんはすぐに、ぷは、と笑い出して、なんか違うような。でもそうかも? とか言って、クスクス笑ってる。  抱き締めていた腕を解いて、瑛士さんがオレを見つめる。 「なんか凛太って、視点が変わってるよね……なんか、楽になる」 「……そうですか?」 「相談とかも、しやすい医者になりそうだね」 「それは嬉しい、かもですけど……」  ――――相談、かぁ。……結構昔から、色々受けてるから、それかな。色んな人が色んな人と話したり、励ましたりしてるの、ずっと見てるからかもしれない。 「SNSで、色んな相談、見てるのもあるのかも……」 「なんか凛太は――ほんと、いろいろ、頑張ってきてるよね」  ふふ、と瑛士さんが笑いながら、ぽふぽふとオレの頭を撫でる。    

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