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90.瑛士さんは?
それから大水槽のすぐ近くに寄って、しばらくは何も考えずに、ただただ綺麗な光景を、ぼーっと眺める。
優雅に目の前を泳いでいくエイがとても大きくて、びっくり。
「瑛士さん、エイって乗れそうですね……」
「……乗れるかな?」
「ふわふわ飛んでくれそう……」
「……魔法のじゅうたんと勘違いしてる?」
「――そうかも」
二人でクスクス笑いながら、水槽の中に見惚れる。
「凛太、亀だ」
「うわ、でっか……!」
「これこそ乗れるんじゃない?」
「あ、最後におじいちゃんになっちゃうやつですね」
「そうだね」
瑛士さんが、ふ、と目を細めて、楽しげに笑いながら亀を見つめているのを見上げてから、オレも亀に視線を戻す。
「あー……今思ったんですけど……」
「うん?」
「亀に乗っても、海に入ったら、息できないですよね。アレ、よく考えたら不思議ですね」
そういえば今まで不思議に思ったこと無かったけど。イルカにお姉さんが乗ってた時も、お姉さんは顔は出してたなあなんて思ったら……亀は海の中に入ってっちゃうなと、変なことが気になった。
竜宮城の中はなんとなく、空気があるのかなって思ってたけど。って……本当に変なこと考えてるし、瑛士さんにこんな意味分かんないこと言っちゃった、オレ、と思った瞬間。
「ああ……肺活量すごかったとかかな?」
「――――……」
肺活量……? ずっと息とめてたってこと?
――――ていうかオレの言ったこと自体がおかしいけど、瑛士さんも相当……。
「……っっ」
不意に爆笑してしまいそうで、口を押えて、瑛士さんからも亀からも視線を逸らした。
「あれ? 凛太―? なんか言ってよ」
瑛士さんがクスクス笑いながら、オレの背に手を置く。
「ちょっと恥ずかしいじゃん、何か言ってって」
「――――………っ」
肩に触れられて、くる、と瑛士さんの方を向かされる。困ったみたいな顔を見たら、オレ、もう可笑しくて。
あは、と笑ってしまった。なんとか声だけは堪えて、笑いながら震えていると、瑛士さんも、ふ、と笑い出して――――……二人でクスクス笑い続けてしまった。
◇ ◇ ◇ ◇
その後、なんとか笑いを収めて、大水槽を満喫してから、水族館の建物を出た。
「観覧車、乗りに行く?」
「あ、はい! 乗りたいです」
少し遠くに見える観覧車に向かって歩き出しながら、眩しい陽の光に目を細めた。そのまま瑛士さんを見上げて目が合うと、またさっきの話を思い出して、ちょっと笑ってしまった。
「……ていうか、瑛士さん、肺活量ってないですよー」
「えー? そんなこと言ったって、あの亀に乗ってる絵に、なんか超能力みたいなのとかが挟まる余地ないし。もう、息止めてたのかなって、軽く浮かんだんだよね」
「もうオレ、あんなに笑うこと、無いって思うくらいでした」
「……楽しそうでよかったけど」
「楽しかったですけど」
ふふ、と笑って即答すると、それは良かった、と瑛士さんに頭を撫でられる。
子供を撫でるみたいな気分なのかな、とふと思うと。
オレはなんだか唐突に聞きたくなって、瑛士さんを見上げた。
「瑛士さんは――オレと居て、楽しいですか?」
そう聞いたら、瑛士さん、ぴた、と歩くのを止めて、オレをまっすぐ見つめてくる。
水槽の青い光を受けた瞳も綺麗だったけど、陽の光の下だと、余計に紫色がキラキラする。何度見ても、綺麗。
その綺麗な綺麗な瞳の上で、少し眉が寄ったと思ったら――ぶにっと両頬をつままれた。
「……っ??」
横に広がった頬に、なすがままに、ただ、瑛士さんを見上げていると、瑛士さんはそんなオレを見て、なんだかとても面白そうに、優しく微笑んだ。
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