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91.照れ隠しなムカムカ?
「凛太と居るのが楽しくないってオレが思ってると思う?」
「あ、そういうわけじゃないんですけど……なんていうか、瑛士さんと比べるとオレ、大分年下だし……なんとなく……」
……だって。瑛士さんはCEOなんてしてて。何してるかは全然知らないけど、なんかものすごく立派な社会人って感じだし。トリプルSのαで。すごく大人な感じだし。瑛士さんと比べたら、オレなんて子供みたいな感覚あるし。
普通は、同じ年くらいの人と、出かけたりするだろうと思うとなぁ……。今日は、雅彦さんが一緒だったから、こういうのもありだったのかもしれないけど。
瑛士さんに誘われたら、きっとどんな人だって、喜んで誘いに乗りそうなのに、オレなんかとこんなに一緒に遊んでくれて……楽しそうにはしてくれてるけど、優しいから合わせてくれてるのかな……と、ちょっと思ってしまったのだけど……言わなきゃよかったかも。
「とりあえず、観覧車、いこ?」
そう言うと瑛士さんは、オレの頬から手を離して、ふ、と笑いながら、歩き出した。隣に並んで、続きを何か言った方がいいのかなと考えていると、瑛士さんが話し始めた。
「ていうか、オレ、ほんとに楽しいよ――――凛太と居ると、ほっとするし。なんか若返る気がするし」
「……もっと素敵な人と、デートとかで来たかったなぁとか思いません? 大丈夫ですか? あ、全然思ってていいですからね……って、オレ、何が言いたいんだか分かんなくなってきました」
「いや、なんとなくは分かるけど」
「……分かりますか?」
オレが全然よく分かんないのに……困りながら見上げると、瑛士さんはちょっと困ったように微笑した。
「大丈夫ですかって聞かれても、そういう大丈夫とかの言葉で返すことじゃないな。今日はじいちゃんも一緒だったけど、凛太と来れて楽しかったよ。また今度、凛太と来たいと思うし」
「――そう、ですか……?」
「オレ、そんなので嘘はつかないし。思わなかったら絶対言わない」
とく。
今度は、ドキドキよりは少し静かだけど。また少し速くなる心臓の音。
辿り着いた観覧車は空いていて、チケットを購入すると、すぐに乗れた。
向かい合って座って、窓の外の風景に目を向けた。
「懐かしいなー、観覧車」
「オレもです」
一度目を合わせて、ふふ、と笑い合いながら、また視線を外に向ける。瑛士さんは、軽く息をついてから、またゆっくりとした口調で、続けた。
「ていうか、オレ、凛太、尊敬してるからね」
「――――……? 尊敬、ですか?」
尊敬という言葉に、大分思考が停止して、不思議に思いながら瑛士さんを見つめると、なんだかとても可笑しそうに目を細めた。
「今、ものすごく間が空いたね」
オレをまっすぐ見つめて、クスクス笑う瑛士さん。
「確かに凛太は年下だけどさ――――すごいと思うとこ、たくさんあるから。尊敬してるんだよね」
「……オレを尊敬、ですか??」
なんだか不思議で、首を傾げてしまうと。
「凛太はさ。お母さん大事にして、料理も覚えて、勉強もして医大に入って頑張ってて――お父さんに頼らず自分の力でって頑張ろうとしてるのも……あと、凛太の独特に考えるとこもだけど、凛太っぽいって思うとこ、全部、良いと思うし好きだよ」
言い淀むことなく、そんな風に言う瑛士さんに、なんだかすぐ返事もできないし。聞いてる内にどんどん、顔、熱くなるし。
……瑛士さんって、ほんと、人たらしというか……オレみたいな奴まで、こんな気持ちにさせちゃうとか、本当にすごいというか……。
ほんと、もう、なんて返したらいいのかも、困るんですけど。
そういうとこですよ、そういうとこ。モテモテになっちゃうのはそういうところです。もうほんと、何回も思ってしまう。
なんだかちょっとムカムカ気分な気もするけど。
その内の九割が、嬉しい気持ちの照れ隠しな感情な気がして。瑛士さんには言えない。
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