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105.分析。

「今度はオレの。早く見てみて?」 「あ、はい」  なんだかとても楽しそうに言う瑛士さんが、また可愛く見えて、ちょっと笑ってしまう。  ペンギンの赤ちゃんを手の中にきゅ、と握りしめたまま、袋の中から取り出すと。  ――本、かな?  不思議に思いながら表を見ると、それはこの水族館限定の図鑑だった。開くと、水族館に居る生き物の写真が色鮮やかに掲載されていて、生態なども細かく書いてある。 「――わぁ……」  面白い。パラパラめくっていくと、ペンギンのページ。  生涯、番を大事にするって書いてあって、これは有名なことなんだ、とほっこりする。  ついつい、見入ってると、瑛士さんが笑う気配。 「良かった――好きそう」  その声に瑛士さんを見ると、目を細めた優しい表情。  ――胸。鼓動が、早くなる。 「うん。すごく、好きです。ずっと読んじゃいそう。図鑑とか、好きなんです」 「――そうかなぁと思った。見つけた時、凛太にぴったりって思って」 「ありがとうございます。大事にしますね」  嬉しくて瑛士さんにそう言ってから、また本のページに視線を落とした時。  頬に手が触れられて、自然と瑛士さんの方を見ると――――。  ちゅ、と頬に、キスされた。  え。  見つめ合う瞳が――めちゃくちゃ綺麗。なんだか少し潤んで見えて、かぁっと頬が熱くなる。  息が、ちゃんとできてる気がしない。 「オレ……凛太のことが可愛すぎて、なんかまずいかも」 「……まずい、んですか?」  可愛いかどうかは別として、なにかまずいことがあるのかな?  よく分からないけど、なんとなく心が少し暗くなる。  瑛士さんは、オレを見て、ふと微笑むと首を横に振った。 「いや。まずくないよ。ただ……ほんと、可愛すぎるんだよね」  触れてる頬を少しだけ、ぷに、とつまむみたいにして、瑛士さんはオレを見つめる。  うう……ドキドキしすぎて、胸が痛い。 「ダメだよね、こんな風にしてちゃ……」  口元を押さえて、瑛士さんがなんだかブツブツ言ってるので、オレは首を傾げてしまった。 「オレは……今、自分がどう思ってるかだけ、言いますけど」 「うん。何?」  瑛士さんはオレを見つめて、優しく微笑む。 「瑛士さんがオレに可愛いって言うのはよく分かんないですけど……言ってくれるのは嬉しいしですし……何されても、嫌だって思わないので、オレ的には別に、ダメでもまずくもないです。ただ……なんかたまに息が出来なくなるので、それだけちょっと困りますけど……」 「――――」  あと何か言うことあるかな、と思って考えていると。  黙っていた瑛士さんが、クッと笑い出した。 「なんか――分析してくれた?」 「分析……まあ、そうですね。なんとなく、整理してみました」 「そっか……息が出来なくなるの?」 「……んー。まあ……そんな感じです」  正確には息は出来てる気はするのだけれど。  ……でも、息が苦しく感じるような、そんな感じ。  ふ、と笑うと、瑛士さんは、オレの頭をくしゃくしゃと優しく撫でた。 「ほんと、かわい」  なんだかすごく楽しそうに、キラキラした笑顔でオレを見る。 「――そうだね。別に、まずくないか」  クスクス笑ってそう言うと、瑛士さんは体を戻して運転席に座り直す。シートベルトをしてからエンジンをかけた。 「シートベルトしてね」 「あ、はい」  なんだかめちゃくちゃドキドキしていたオレは、その言葉に、瑛士さんから顔を逸らすきっかけを貰って――良かった、と思った。  オレがベルトをすると、瑛士さんが、車のキーケースを見せてくれた。そこにはペンギンがくっついていた。すごく高そうな雰囲気の車のキーの横についてる可愛いペンギンに、思わず、ふふ、と笑ってしまった。  オレも鞄からキーケースを出して、ペンギンをくっつける。 「ふふ。可愛いですね」 「凛太に似てるからね」 「だから、それは謎ですけど」  クスクス笑いながら、瑛士さんは車を発進させた。  

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