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108.突然の

「凛太、ついたよ」 「あ。はい」 「大丈夫? ぼーっとしてる。眠い?」 「大丈夫です」    チョーカーと指輪をつけたまま宝石店を出て、瑛士さんの車でマンションにたどり着いた。  眠くも具合悪くもないんだけど。  なんだか、さっきから、少しだけおかしいような気がする。  さっき、体の奥の方で、熱くなって――なんか、そのまま、ぽ、ぽ、と温かい。歩いていても、なんだか足元もふわふわしてる感覚。  エレベーターを降りて、お互いの部屋の前で、ちょっと顔を見合わせた。 「凛太、シャワー浴びたらそっち、行っていい?」 「あ、はい。ホットミルク、飲みますか?」 「うん。あ、ちょっと仕事の電話してからいくね」 「何時でもいいですよ」  そう言って、瑛士さんの笑顔を最後に見て、部屋に入ってきた。 「――んん……」  なんだろ。なんか……胸なのか、お腹なのか、熱っぽいような気がして、自分の手で、なんとなくその辺りを撫でてみる。結局よく分からないままで、ふぅ、と息をついた。  お風呂、はいろ。  バスルームで体を洗っている時、ふと首元のチョーカーに触れた。  あとで、外し方、設定しないと。  本人とパートナーのスマホで解除出来たり、心拍とかの異常がパートナーに共有出来たりってすごいなぁ……。  つけたばかりだから、違和感はちょっとあるけど。  くれた時の瑛士さんの笑顔が、ふと浮かぶから、全然嫌ではない。むしろ、なんか、とても嬉しいような気がする。  と。  その時。不意に、だった。  体の奥で、熱をもってたものが、急に燃え上がっていくのが分かる。 「あ……っ」  鏡に手をついて、ぎゅ、と握る。  ……これ――ヒート、か……。どうりで、なんか、変だと思った。  脈が速い。頭がますますぼうっとする。熱っぽい。  シャワーで分からないけど、汗がにじんできていると思う。  体の奥の方が疼き始める。   肌に触れている湯さえ、なんだかくすぐったく感じる。 「……やば……」  明日は日曜だから……月曜から少し、学校休まないと。  竜に連絡、しないと。  ――瑛士さんにも、来ないでって、言わないと。  なんか……すごく、体が熱い。  早く抑制剤、飲まないと。  思うけれど、急激に上がった体の熱が抑えきれない。反応して固くなった自分のそれに、こらえきれず触れる。 「……っ」  普段、あまりそういう欲は無い。淡白すぎるほどだと思うのに、ヒートの時だけはこらえきれない。  浅ましい気がして……そもそも、こういう感覚には、いいイメージが無い。理性の働かない、欲のみの――まるで動物みたいな感覚が、自分の中にあるのが怖い。  じわ、と涙が滲む。  いくら他のΩの人達よりは、かなり楽だと分かっていても――この瞬間は、やっぱり自分がΩだという事実が、嫌いだ。 「……ふ……っ……」  鏡に片手をかけて体重を支えて、俯いたまま自身に触れて……。  ぽた、と涙が零れ落ちてすぐに、シャワーで流れていく。  達した白濁した液体も即座に流れ去って――――。  は、と長い息を吐く。  バスタオルで体を拭いて、Tシャツと下着だけ。  もうどうせズボンとかはいてもしょうがないし。  ――三日。  三日だけ、耐えれば、終わる。そしたらまたしばらくいつも通り。  大したことじゃない。と、きゅ、と唇を噛みしめた。  バスルームを出て、すぐに薬を飲みこんだ。  竜に「二、三日休むね」と送ってから、瑛士さんの画面を開いた。 「急にヒートが始まっちゃったので、少しの間、来ないでください。すみません」  これで分かってくれるだろうと思って、特に返事は待たず、スマホをテーブルに置いた。  水のペットボトルとゼリー飲料をいくつか抱える。  ヒートの時の食事は面倒で、いつもこれですませてる。  もう……ほんと急だな。  前回はいつだっけ、と思い起こしてみると、なんだか……三ヶ月よりも、少し早い気がする。  なるべく周期を遅らせる薬とか……ヒートを弱める薬。絶対作ろ……。  はぁ、と熱い息が零れる。  もー……ほんと、いやだけど……仕方ない。がんばろう。  一応スマホも持って、寝室に向かうことにする。  リビングの電気を消すと、熱を持て余しながら、息を吐いた。

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