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121.オレの前の瑛士さん

 そこまで真面目に話した後は、二人が瑛士さんに細かいことの確認。  オレは何となく聞かれたことに応えながら、カフェオレを飲む。  でもその内、よく分からない仕事の話も入ってきて、聞いてていいのかも分からないまま、なんとなく、三人の話す空気感を楽しんでいた。  頭の良い人達の会話って、すっごく心地いいなと、普段あんまり思わないことを思った。  聞き返すこともなく、ぽんぽんと話が飛んでも、皆すぐ分かって、ちょっとお互い先回りしつつ、話が進んでく。  信頼しあってるのが、すごく感じられるような。……あ、教授たちの会話もこんなだった気もする。  ……瑛士さんの話し方。いいなあ。オレと話す時とは少し違う。内容というより声を聞いていると。こそ、と有村さんに瑛士さんが何かを囁いた。有村さんはとっても嫌そうな顔をした。 「瑛士、一番苦手だろ、そういうの」 「だから拓真に任せる。ツテ、あるだろ」 「……ほんっと昔から、めんどくさいことはオレに押し付けるよな」 「お前の方が得意だから。頼りにしてるし」 「……なんか言い方に裏があるよな」  呆れたように言う有村さんに、瑛士さんは、クッと笑う。 「いろいろギリギリのとこでできるだろ」 「おい……職業的にそれ言われるの、NGだけど?」 「ほめてるよ?」 「……お前なぁ」  にっこり綺麗に笑う瑛士さんに、有村さんは深くため息をつきながらも、苦笑する。 「……どこまで攻めていい?」 「拓真の良心が痛まない範囲で調べて」 「それほぼ無制限ってことか?」 「任せるよ」  やれやれ、と有村さんが首の後ろに手を置いて、しばし考えてる。 「ごめんね、凛太くん。たまーにこういう話になるけど、まあ気にしないで。悪いことはしない人達だから」 「まあギリギリは攻めさせられるけど」  楠さんの言葉に、すぐに有村さんがツッコんでる。  その横で、瑛士さんが、クッと笑って、口元を押さえてる。 「――――」  ……綺麗だなぁ、瑛士さん。  オレと話してる時とは、全然違う感じもカッコいい。  っていうか、瑛士さん、どっちがほんとなんだろう。全然違いすぎて不思議だ。  ヒートの間の瑛士さんは……今みたいな涼しい感じじゃなくて。  熱っぽくて。なんか、食べられちゃいそうなくらい。視線が強くて。  目が合うだけで息が乱れちゃって。  オレの体温も、どんどん上がって。  声も、今は低めで落ち着いた声だけど。  あの時は、少し、掠れてるみたいで、甘いって、感じる。  囁かれると、力、抜けて。  触れてくる手が、すごく熱くて強引なのに、どうしようもないくらい、優しい。  どっちもあるのって。……ずるい気がする。  どっちも、瑛士さんだとは思うのだけど。  オレの前に居た瑛士さんは、二人は知らないよね、と思うと、なんだか。  心の中……なんか、変。 「……で、期限は?」 「早ければ早いほどいいかな」 「ほんと無茶言う」 「拓真ならできるだろ」 「……はあ。昔からそうやって丸め込まれてんだよな、オレ」 「人聞き悪いなぁ。あ、拓真、コーヒー、おかわりする?」 「飲む」  クスクス笑いながら瑛士さんは、有村さんのカップを持つ。 「京也さんのも淹れてきますね。凛太は入ってる?」  急に呼ばれて、どき、と心臓が跳ねる。  オレ、ほんと。へんなこと考えてたから。めちゃくちゃ内心焦りながら、瑛士さんを目を合わせた。ふ、と不思議そうな顔をされる。まさか考えてることバレないよね、と焦りながら。 「あ、オレ、まだ入ってるので……?」  答えている途中で、瑛士さんがカップを置いてオレの隣に来たのを、驚いて見上げる。 「凛太」 「……?」  ふ、と頬に触れられる。 「もうここ、いいから。寝室に行ってて」 「え……」  瑛士さんと瞳が合った瞬間。急に全身の感覚が敏感になって、ぞく、と震えた。あ、なんかヤバいのかもしれない。理解してすぐ、立ち上がる。背に触れられて、余計に。体の奥が熱くなる。  背を支えたまま、ドアまで瑛士さんが来てくれる。挨拶しなきゃと、二人を振り返ると。 「ごめんね、凛太くん、お邪魔しちゃって。もう帰るから、ゆっくりして」 「無理するなよ」  そう言ってくれる楠さんと有村さんに、頭を下げる。  部屋を出る時、瑛士さんが「すぐに行くから」と言って、微笑んでくれた。ゆっくり寝室に向かう。  息が、熱い。  ……ヒート。薬、飲まないと。でも、薬、リビングだから。後にしよ。  ベッドに横になって、熱い顔を、枕に押し付ける。  ……オレが、分かるより先に……。  瑛士さん、気付いた……?   くらくらする。熱い。  どうしよう。

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