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124.合理的で役得?

   ベッドの上。意識は朦朧としてるけど。気持ちいいってことだけは分かる。  さっき一人であんなにきつかったヒートが瑛士さんに触られてると和らぐ。  どうしてだろう。  気持ちいいしか、なくなるの。  肌が汗ばんで、瑛士さんの手が、ぴた、と張り付くみたいで。  はずかしい、のに。 「凛太……」  優しい声がする。 「……大丈夫?」  瑛士さんの声に、何とか瞳を開ける。 「……ん」  頷くとまた唇が重なって、キスが絡む。  大丈夫、ではない。  気持ちよすぎて、怖いとか。  生まれて初めてな感覚に、どうしてたらいいのか分からない。  瑛士さんが触れるところ、全部気持ち良くて、何回も、イッちゃって。 「んん、ぁ……っ」  喉が、震えて、声が抑えられないなんて。  こんな風になるの。昨日までは知らなかった。  昨日初めて、自分以外の人の手が触れた。  瑛士さんの、綺麗な手。オレのそんなとこ触らせていいのか分かんなくて、どうしようって思いながら。 「……凛太」  なんとか目を開けて、見上げる瑛士さんは、ずっと優しくて。  でも、いつもとは全然違う、熱っぽい瞳。 「えいじさ……っあ……」  瑛士さんの、匂い。  体を包んでるみたいな気がする。    上位アルファの側にいるから、反応、した?  ……アルファのフェロモンに起因してヒートが起こることがあるのは、知ってるけど。  分かんないけど……。 「……っ」  瑛士さんは、体中触る。肌に熱がどんどんこもっていって、息があがる。  すごく、気持ちいいけど。  瑛士さんのフェロモンに包まれて、気持ちよすぎて、死にそうになってるけど。  ――中には、入ってこない。  瑛士さんの手がまた、熱くなってるオレのを触れて、刺激する。  唇を噛みしめても、キスされて、解かれる。 「唇、噛んじゃダメ」  優しい声で、囁いて、くす、と笑う。 「声、出してていいよ……めちゃくちゃ、可愛いから」  「……っ」  そんな風に囁かれてすぐ、瑛士さんの舌が絡んでくる。  上顎を舌でなぞられて、ぞわぞわするのに、気持ちよくて、声がくぐもる。  舌を吸われたとき、腰が自然に浮いて、恥ずかしいのに、気持ち良さにどうにもできなくて。 「……っんん……」  ぎゅ、としがみつくと、大きな手が、背中に触れる。首筋に落とされるキスが、大丈夫だよ、と言ってくれるみたいで、なんだか、体が、震える。  瑛士さんは、優しくて、あまったるくて。  でも、たまに逃げたくなっても、逃がしてはくれない。  容赦ない、快感を与えられ続けてる、みたいな。  瑛士さんの手で、イくと、「上手」と言って、頬にキスして、撫でてくれる。    甘い匂いが。強くなって。  おひさまみたいな。  それが強まると、オレのヒートは、楽になる。苦しいのが、溶けて。  でも快感は、強くなる。  もうどうしたらいいか、分からなくなって、瑛士さんのくれる感覚を、追う。  瑛士さんのも、きつそう、なのに。  ――どうして、最後までは、しないんだろ。  我慢、してくれてるのは、分かる。  だって。  きつそうに、眉を寄せる時があるし。息、熱いし。  でも、  優しいまま。  触れてくれてる。  ふわふわ、ずっと、気持ちよくて、しあわせなのは。  ごまかしようがなかった。  ◇ ◇ ◇ ◇  ふ、と目が覚めると、隣でオレを見ていたらしい瑛士さんが、すぐに気付いた。  背中にあったかい手が触れる。 「目、覚めた?」 「……はい」 「起き上がれる? 無理かな」  くす、っと笑いながら、背中を撫でてくれる瑛士さん。 「きつかった?」 「…………えと……」  気持ちよすぎてきつかったけど。  ……ヒートは、すごく楽になった。今は、また、すごく落ち着いてる。 「……ありがとう、ございました」  そう言ったら、瑛士さんがきょとんとしてオレを見た。 「……ありがとうって言われたのは初めてかも」  クスクス笑って、瑛士さんが体をかがめる。  ちゅ、と頬にキスされる。 「……ヒートが楽になったから? お礼言ったの?」 「もう……全部、いろいろです」 「そっか。いろいろね」  クスクス笑いながらオレの頬に触れて、じっと見つめてくる。 「凛太、今、オレの話聞ける?」 「……はい」  むく、と起き上がろうとすると、その手で、止められる。 「いいよ、寝てて」 「え、でも……起きます」  寝ながら人の話聞くとか。しかもなんか、大事そうな話なのに。  そう思ったけど、なんだか思っていた以上に体が。  力が入らない。ベッドについた手が、なんか、プルプルしてる。 「あれ……?」  なにこれ。  こんなになったこと、無いんだけど……。固まってると、瑛士さんが、ふと、笑い出して、お手を伸ばしてきた。 「よいしょ、と」 「……っっ?」  あぐらをかいたみたいな瑛士さんの上に、すっかり抱っこされてしまった。  瑛士さんの顔が、めちゃくちゃ近くにある。  ち。近い。心臓が一気に、跳ねた気がした。 「えっ……こ、これで話すんです、か?」 「だって、一人で座ってられなそうだから。合理的でしょ」 「……っごうり……?」  合理的ってなんだっけ……?  近すぎて。  囁きが、頬をくすぐるくらい、近すぎて。  これはちょっと無理、どうしたら……と思っていた。 「まあ、可愛いから、オレが役得なだけだけど」  瑛士さんがクスクス笑いながら耳元で囁いて、オレをさらに引き寄せて、オレの額にすり、と顎を寄せてる。 「……っ」  声が、出ない。耳から入ってきた瑛士さんの声が。くすぐったすぎて、死にそう。  心臓が、爆発したら、瑛士さんの、せいだ。  と、思った。

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