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131.あったかいきもち

 部屋に入ると、内海教授と佐川教授がちょうど二人そろっていた。   「おはようございます、すみません、すこしお話があるんですけど」 「おはよう、どうしたの?」  佐川教授が言って、隣で内海教授もオレを見上げた。  オレは、忙しい三年間は結婚を延期することになって、グループの創立記念パーティーでさらっと婚約を発表することになったと、二人に簡単に説明した。 「なので、結婚式とか、恩師としての挨拶とか、そういうのはなくなりました。すみません、なんだか、お騒がせして……」 「ふうん……まあ、賛成だな」  内海教授が笑って、頷いた。 「お前、ここから、ものすっごく忙しいんだからな。最悪、どっかで離婚かと思ってたぞ」 「教授、思っててもそういうのは言わない物ですよ」 「つか、思ってただろ? 医学生と新婚生活両立できないって」 「――まあ……色んな人がいますからね。出来ないとは限りませんけど、まあ、かなり難しいだろうとは思ってましたが」 「ほらみろ」    先に机に座った竜は、話には入ってこないけど、なんだか面白そうにこっちを見ている。  離婚。……最初の約束のまま結婚して、離婚してたら、二人には、やっぱりなとか思われていたのかな。そう思うと、なんだか不思議な感覚。 「それで? そっちのパーティーには、招待してもらえるのか?」 「え?」  ……内海教授が、竜と同じようなことを言っている。 「でも、創立記念のパーティーなんて、教授たちには関係が……?」 「あるだろ、あのグループ、すごく医療系の会社多いし、研究者も多いからな。参加したら、なにかしら、楽しいこともあるかもしれない。それに、凛太の婚約者のトリプルSとも、やっぱり話してみたいしな」 「えと……佐川教授も、ですか?」  不思議に思いながら聞いてみると、んー、と考えた佐川教授が、ふいに、にこっと笑った。 「そうだね、なんだか面白そうだし。行きたいかも。あぁ、でももちろん、婚約者に聞いて、よかったら、ね?」 「あ、……はい。分かりました」  竜が口元を押さえて、ぷ、と笑っているし、ほらな、と口の動きで言っている。まだゼミの皆が来ていないのをいいことに、そうだ、と教授たちを見つめ直した。 「あの、話は全然違うんですけど……あの、オレ、瑛士さんのフェロモン、分かりました……」  え、と二人そろって、ガン見してくる。うぅ。そのフェロモンが分かったいきさつとかを考えられているのかと思うと、ものすごく恥ずかしくなってくる。  これは早くこの話は終えてしまうに限る。 「あの、それで瑛士さんも、オレのが分かったみたいです」 「それは確かに?」 「……はい」  なんならオレが分かる前から、ちょっと感じ取られていたくらいだったから、それは確かだ。 「――でも、瑛士さんが分かった時に一緒にいたアルファの二人の人は、気付かなかったです。なので、やっぱり全員に分かるようになったというよりは……分かる人が増えた、というんでしょうか……よく、分からないんですけど」 「なるほど……」  オレの言葉に、教授二人は興味深そうな顔をしている。その時、数人が一緒にゼミ室に入ってきた。 「じゃあその話は、また今度で。とりあえず、パーティーの方は、聞いてみてくれる?」  佐川教授ににっこりと笑って言われて、オレは、はい、と頷いた。  竜の隣に腰かけると、竜はオレを見てニヤリと笑い、「ほらなー? 皆行きたいって思うって」と言ってくる。  まあ、確かに……医療系の会社の多いグループなんだろうけど。  そこに行って、この三人は、何するつもりなんだろう……?  ――瑛士さんに聞いたら、きっとオッケイくれてしまう気がするけど。  と、そこで講義が始まって、考えるのは後回しにした。  授業が終わるともう、昼食の時間だったので、皆は早々と立ち上がって出て行く。そんな中、内海教授が言った。 「凛太、さっきの話、もう少し他に何か出てきたら、また話、聞くから」 「あ。はい、分かりました」  フェロモンの話。他に何か。出てくるかなぁ。んーどうだろ、と考えながら、立ち上がった時、ポケットのスマホが震えた。 「あ。瑛士さんだ。電話していい?」 「食堂に歩きながらにしようぜ」 「うん。ごめん」  教授二人に別れを言って、竜と二人で廊下に出ながら、瑛士さんの電話に出る。 「もしもし」 『あぁ、凛太? ――体調はどう? 大丈夫?』  優しい声と、あったかい話し方。  自然と、頬が緩む。どうして瑛士さんはこんなにあったかいのかなあ。電話なのにすごいよなぁ、なんて感心してしまう。 「あ、はい。なんかもう、完全に普通通りみたいです」 『ほんとに?』 「はい。ありがとうございます、心配してくれて」 『うん。心配――でも、それだけじゃなくて』  そう言って、瑛士さんは、くすくす笑う。 『ちょっとでも変だったら迎えに行くのに、って思ってるから、ちょっと残念。あ、いや、もちろん、心配の方が、大きいけど』 「瑛士さん……楠さん、やっと来たって顔してませんでしたか?」 『あ、言ってたな、それ。何で分かったの?』 「いや、分かります……」  やっぱり。  瑛士さんののどかな言葉には、くすくす笑ってしまうけど、きっと楠さん的には、本気で「やっと来た」なんだろうなぁ、と思ってしまう。  なんか、オレのヒートで、瑛士さんや楠さんのお仕事に支障をきたして、ほんとすみません、という気分になるけど。  楠さんもいつも優しいので――楠さんを思い出してもやっぱり、あったかい気持ちになる。

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