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132.新婚って。
「オレ、ほんとに大丈夫ですけど、とりあえず今日は十八時過ぎには家に帰ろうと思います。夜、そうなることが多いので一応今日まで。だから、ご飯作ろうと思うんですけど」
『あ、本当? じゃあオレも早く帰る――え?』
言いかけた瑛士さんの向こうで、多分、楠さんが何か言ったんだと思う。少しだけ受話器から離れてから、瑛士さん、戻ってきたのだけれど。
『あーごめん、凛太。少し遅いかも……でも絶対帰るから、待ってて?』
「はい」
『あ、でも体調がおかしくなったら、その時は即、帰るから」
付け加えられた言葉に、ふと嬉しくなって、「……はい」と頷く。
「あ、そうだ、瑛士さん、ひとつだけ話しても平気ですか?」
『もちろん。いいよ』
「あの……結婚式じゃなくて、創立記念パーティーで発表することを、竜や教授たちに伝えたんですけど――三人とも、そのパーティーに出たいって言ってるんですが……」
『あ、そうなの?』
瑛士さんは特にびっくりな感じもなく、そっか、と笑ってる。
「全然関係なくても、出てもよかったり、しますか……? あ、もちろんダメだったら」
『いいよ。凛太の婚約発表でもあるんだし、関係ないってことはないでしょ。分かった、招待状を用意するから、凛太から渡してくれる?』
「あ、はい。それは、もちろん……」
『じゃあ大丈夫』
はっきり言ってくれる瑛士さんに、ほんとにいいのかな、と思って一瞬黙ったオレに。
『ちょっとは、凛太の味方がいたほうがいいと思うからね。その三人、なんか心強いし』
くっ、と笑ってる瑛士さん。
竜はまだしも、教授たちなんて一瞬しか会ってないと思うのだけれど。
でもなんか、そのイメージは的を得ている気がして、はい、と頷く。
『じゃあ凛太、十九時……いや、二十時には絶対、何があっても帰るから、待っててね』
「あ、はい。ていうか、待ってるので、そんな無理しないでくださいね」
『いや。帰る。会いたいし』
「――……」
言葉に詰まって、返事が出来ない。一瞬で、顔が熱くなるんだけど、瑛士さんてぱ。分かってるのかな、もう……。
『でも少しでもだるかったら作らなくていいよ。オレが買って帰るから、連絡入れといて」
「ありがとうございます。でもいまのところ大丈夫そうです。瑛士さん、何か食べたい物ありますか?」
『んー。今思い浮かばないから任せていい? なんでもおいしいし。あ、みそ汁は飲みたい』
ちょっと考えてから出てきた答えは、とっても優しい。
「ふふ。はい。分かりました」
『うん。よろしく。じゃあね、凛太、またね』
「はい。瑛士さん、また」
優しい声で、最後に名前を呼ぶ瑛士さんの声が。たったそれだけなのに、すごく嬉しくて、オレも名前を呼んでから、電話を終えた。
「……ごめん、長くなちゃった」
隣で黙ってた竜に視線を向けて、そう言うと、凛太はオレをちらっと見て、ふ、と笑った。
「――新婚?」
「……っち、ちがうし。何、新婚って……」
「瑛士さんの声は聞こえなかったけど、お前の言ってることとかは、そんな感じ」
「……え、オレ、なんか変なこと言ってた?」
ご飯作って待ってるとか、それかな? と思いながら聞いたオレに。
「話してる間ずっとニマニマしてて、瑛士さんのことが大好きすぎる感じ、すげーするけど?」
「――ッッ」
予想もしてなかった答に、かあっと熱くなる。
「ニマニマなんて、してないし……っ大好きとか、そんなことは――ない……こともない……けど」
「あ? どっち?」
「……好き、だけど……」
「――はいはい」
呆れたように言われてなんだかとても恥ずかしい。むむむ、と若干膨らんでいると、竜が笑いながら言った。
「パーティー、オッケーだって?」
「あ、うん。招待状、渡すって」
「そっか。ちょっと楽しみだな」
何でだろと思いながら、ふと。
「なんか瑛士さん、面白いこと言ってた」
「何て?」
「オレの味方が居た方がいいって。その三人なら心強いって言ってたよ」
「へー?」
「三人が心強いのはすごく分かるけど。瑛士さん、そんなに会ってないのにね」
面白そうな顔をして、竜がくすくす笑う。
「まあ……何となく分かるような気がする。教授たちなんて、見るからに強そうだもんな。まあ、瑛士さんの結婚を快く思わない連中もいそうだもんなあ。瑛士さんのことを大好きな女、とか。いるかもしんないし」
……確かに。
創立記念のパーティーがメインだから、婚約はささっと話して終わってくれたらいいなぁ……とも思うけど。
どんな感じなんだろう。
というか、そんなパーティー、出たことないし。
「竜はさ、そういうパーティーとか、出たこと、ある?」
「あるよ。ていうか、金持ちとか社長とかって、すげーパーティーするやつ居るし、皆、付き合いがあるから出るし。それに家族を連れてっていうのも、結構あんだよ。もう最近はついていかねぇけど。――マジ、うざいよ。覚悟してな」
「えええ……あ、なんか胃が痛くなりそう……」
きゅう、と胃の辺りが締め付けられる感が……。
思わずお腹を擦ると、竜が苦笑してる。
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