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134.感謝しか。

 今日は早めに学校を出て、買い物してきた。  だしをとったり、下準備したりしながら、今日の竜との会話を思い出す。  ――竜はオレのこと、分かりやすいっていうけど、オレを分かりやすいっていう人って、そんな居ない。  Ωなのを隠してβでいたのもあって、あんまり人と深く関わらないようにしていた。通常のやりとりくらいはしてたけど、そこまで信頼関係とかあるわけじゃないし、好きでも嫌いでもない感じ、だったかも。  αはもう嫌いだったし。Ωは、ほんとは仲間なのに裏切ってる感があって苦手だったし。  まあいちばんβが楽で、フェロモンも絶対バレないし、話す人はβが多かったかな。  SNSがかなり、オレの孤独を癒してくれていた気がする。  画面の向こうには、孤独なΩの人たちがたくさんいて、一緒なんだなって思えた。  オレも頑張るから、皆も頑張って。オレは、皆が少しでも楽になれるように、これから頑張っていくから。そんな風にずっと、思ってた。  ハンドル名しか知らない人たちだけど、そこには確かに存在してて。  ――まあオレ的には、SNSがあってよかったなという感じ。  大学で会った竜は、αってすぐ分かったし。あんまり関わらないでいこうって思ってたのに、何かの課題で一緒になって――喋ってたら、なんか好きになってた。  Ωなのもバレたけど、でも秘密にしてくれたし。  隠し事をしないでいられるのも、自然体で居られる理由なんだと思う。  オレのことが分かりやすいとか言う人って、竜だけかもしれない。あと瑛士さんには、言ってない気持ちもバレてる。  今まで意識してこなかったけど、多分この二人のこと、オレが信頼してるから、なのかも。無意識にかぶってきた殻みたいなの、かぶらなくても……二人の前では楽に居られる。  もう暗くなった空を、ベランダの窓から見つめていると、テーブルの上のスマホが震えた。窓を閉めて、スマホを開く。   『遅くなってごめんね、二十分くらいで家に帰るから』  瑛士さんからのメッセージに、了解です、というにっこりスタンプを送って、料理を仕上げにかかる。  今日はぶりがおいしそうだったから、ぶり大根がメイン。  ぶりの臭みはちゃんと取ったし、大根は下茹でして、ゆっくり煮込んである。  キンピラはアク抜きを丁寧にして、ごま油で炒めたら、あんまり味付け濃くしないようにして――。  だしはちゃんと取ったから、お味噌汁と、ほうれん草のお浸し。あとだし巻き卵。卵焼き、おいしそうに焼けたのを、包丁で切り分ける作業がすごく好き。  あとは、鶏肉と里芋の煮物。ちゃんとぬめりを取って、崩れないように煮込んだ。  これで大丈夫かな。  あ、あと、キウイがおいしそうだったから、後で剥こうっと。  ――いつも瑛士さん、すごくおいしそうに食べてくれるから。  ほんと。嬉しいし。  毎日でも作りたくなっちゃうよなー。  せっせと仕上げていると、鍵が開く音。 「凛太―、ただいまー」  急いで玄関に向かうと、まだスーツ姿の瑛士さん。着替えてから来ると思ってたから、あれ、と思った瞬間、理由が分かった。後ろにいる人が顔を見せて、にっこり笑った。 「雅彦さん?」 「凛太くん、こんばんは。ごめんね、突然」 「あ、いえ。こんばんは」  雅彦さんもスーツだった。お仕事帰りかな……?  そう思ってると、瑛士さんがオレを見つめた。 「ごめんね、ほら、招待状が欲しくて、電話したら、わざわざじいちゃんが届けにきちゃったみたいで、下でばったり会ってさ」 「あ、招待状……」 「送ってくれればよかったのに」  苦笑してる瑛士さんに、雅彦さんは「お前のせいだろ」と笑う。 「あ、ごめん、凛太、じいちゃんもご飯食べたいって。オレのおかず半分あげていいから」 「大丈夫ですよ、多めに作ってるので」 「ありがと。――ちょっとスーツ、着替えてくる。じいちゃん頼んでいい?」 「あ、もちろん。雅彦さん、どうぞ」  スリッパを差し出す。瑛士さんが部屋を出て行くのを見送って、入ってきた雅彦さんに視線を向ける。 「すみません、招待状って、オレの先生と友達のですよね」 「三通でいいんだよね?」 「はい」 「もう一通――凛太くんのお父さんにも、一応ね」 「あ。……すみません」 「瑛士が渡しに行くって言ってたから」 「え。瑛士さんが?」  父には、電話で伝えようと思って。というか、婚約パーティーでもないから、もう、来れないならそれでいいと思ってたのだけど……。だってあの人がオレの父って、知ってる人、居ないし。関係ないよねとおもってたんだけど。 「――ありがとうございます」  とりあえず受け取って、リビングボードの上に置いた。  洗面台で手を洗ってからリビングにきた雅彦さんに、座っててください、と伝えた。  二つ出すはずだった食器を三つにして、よそっていく。  よかった、いっぱい作ってて。 「凛太くん」 「はい」  いろいろよそりながら、テーブルについた雅彦さんに視線を向ける。  上着を脱いで、ネクタイを少し緩めている。  年的には、おじいさん、で間違いないのだとは思うのだけれど。  やっぱりもう、カッコいいというか、絵になるというか。見つめながら、言葉を待っていると、雅彦さんがオレを見つめ返した。 「瑛士が真面目にプロポーズしたって聞いたよ」  わ。情報が早い。――そっか、それを聞いたから、雅彦さんがわざわざ来てくれたのか。  それで、さっきの「お前のせい」なのかなと、一人納得する。 「いまのところ――受けるかどうかは保留だって?」 「えーと……そうですね。保留というか、三年はお互い忙しいので、いろいろ頑張りながら考えるのがいいのかなって」  そう言うと、雅彦さんは、ふ、と笑った。 「まあ、オレは、二人が――というか、凛太くんがそれでいいなら、いいと思うから。反対もしないよ」 「オレ、ですか? 瑛士さんは」 「あいつはもう、好き勝手言ってるから。凛太くんがよーく考えて、自分に一番いいことを選びなさい。オレはそれを、応援するから」 「――はい」  この、全面的に応援してくれる感。  瑛士さんと雅彦さんは、おんなじ感じなんだよね。なんかほんと。  心の中、じわっと、嬉しいのが広がる感じがする。 「あ、料理、仕上げちゃいますね」 「うん。よろしく。ごめんね、突然」 「全然。嬉しいです、 来てくれて」  きっと、今のを言いに来てくれたんだろうなって、思うから。  ほんと、感謝しか、ない。 ◇ ◇ ◇ ◇ (2025/12/21) お久しぶりです( ノД`) ……久しぶりすぎて、更新、余計に緊張してます💦ヒー。 本当は昨日更新しようと(xにも書いてたし)してたんですが、 読み返しすぎて、遅れました💦 とある事情がありまして、 投稿サイトの更新、離れておりました。 事情は、またちゃんと書けたら、置きます。 更新は、ぼちぼち再開していきたいと思います。 またよろしくお願いします。 悠里

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