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135.胃袋を……?
料理をほぼ並べ終えた頃に、瑛士さんが入ってくる音がした。
ラフな黒のTシャツとハーフパンツ。普通の部屋着なのに、入ってくる姿がモデルさんみたいだなぁ、と感心してしまう。
「おまたせ。ごめんね、電話が来ちゃって」
「今ちょうどできたところです。電話は大丈夫ですか?」
「大丈夫。手伝うよ」
「あとご飯よそるだけなので平気ですよ」
「じゃあ運ぶね――あと、凛太、これあげる」
瑛士さんがキッチンに歩いてきて、カウンターの上に紙袋を置いてから、オレの隣に立った。
「何ですか?」
見上げると、瑛士さんは、ふ、と微笑んでオレを見つめ返してくる。
「おいしいマドレーヌ買ってきた。あとで紅茶入れてあげるね」
「わー。ありがとうございます」
瑛士さんがたまに買ってきてくれるお菓子は、とってもおいしい。
「あ。そういえば、水族館のおみやげも食べなきゃだね。後で持ってくるね」
「ふふ。太りそうですね。ごはんもいっぱいありますよ」
「まあ、凛太はもうちょっと太っていいよ」
そんな風に言いながら、瑛士さんが頭を撫でてくる。
ご飯をよそって、となりに置くと、瑛士さんはオレの顔を覗き込んできた。
「ヒート明けで学校行って疲れてない? またいっぱい作ってくれてるし」
「疲れてないですよ。早く帰ってきましたし。昨日まで全然何もしてなかったですし」
「無理しなくていいからね。あとは食べたらゆっくりしてて。片付けオレがやるから」
「一緒にやりますよ。大丈夫です」
よそったご飯とお味噌汁を持って、テーブルに並べる。瑛士さんはオレの隣の席にご飯を置いた。あ、こっち側に座るのか、と思っていると、雅彦さんが笑い出した。
「まあ――瑛士の気持ちは、なんとなく分かってはいたけどな。それにしても、早すぎないか、展開が」
「そうかな? まあでも、気持ちなんて固まる時は一瞬だと思うけど」
さらりと流してそう言うと、瑛士さんはオレを振り返る。
「凛太、もう運ぶもの、ない?」
「はい。あ、お酒とか、飲みますか?」
「オレはいらない。じいちゃん、飲む?」
雅彦さんも「お茶で大丈夫だよ」と微笑むので、オレと瑛士さんも、席に着いた。
「じゃあ――いただきます」
二人とも、手を合わせてからオレを見てくれるので、「どうぞ」と微笑む。
どうぞって。
誰かに言えるの、嬉しいし。
大好きな二人なので、ますます嬉しい。
二人は、みそ汁のお椀を手に取った。あ。同じ。
オレもなんとなくお椀を手に取って一口飲むと、出汁の香りがふわっと広がった。
瑛士さんと雅彦さんも、同じように最初のひと口を味わってから、ふわっと笑みを浮かべた。
「やっぱり、凛太のみそ汁、おいしい」
「ほんとにな。出汁が優しい」
「オレがみそ汁、飲みたいって頼んだんだよ。飲めて良かったね、じいちゃん」
「自分の手柄のように言うんじゃないよ」
おかしそうに笑い合ってる二人を見てると、胸の奥があったかくなる。
それから、ぶり大根を口に入れて、瑛士さんが「……うま」と呟く。
雅彦さんも頷きながら、ゆっくりと箸を進めていた。
――こんなふうにおいしそうに食べてもらえるだけで、
なんでこんなに嬉しいんだろう。
そんな風に思いながら、オレも食べていく。
皆で食べるって、それだけでおいしい気がする。
「瑛士は、胃袋を掴まれた感じか?」
雅彦さんが冷やかすように言うと、瑛士さんがふっと笑って、目を細める。
「……いや。胃袋っていうか。なんだろうな」
んー、と考えながら、瑛士さんは隣に居るオレを見つめた。
え。なんか。
そんな考えながら見つめられると、めちゃくちゃドキドキしてしまうのですが。
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