141 / 143

135.胃袋を……?

 料理をほぼ並べ終えた頃に、瑛士さんが入ってくる音がした。  ラフな黒のTシャツとハーフパンツ。普通の部屋着なのに、入ってくる姿がモデルさんみたいだなぁ、と感心してしまう。 「おまたせ。ごめんね、電話が来ちゃって」 「今ちょうどできたところです。電話は大丈夫ですか?」 「大丈夫。手伝うよ」 「あとご飯よそるだけなので平気ですよ」 「じゃあ運ぶね――あと、凛太、これあげる」  瑛士さんがキッチンに歩いてきて、カウンターの上に紙袋を置いてから、オレの隣に立った。 「何ですか?」  見上げると、瑛士さんは、ふ、と微笑んでオレを見つめ返してくる。 「おいしいマドレーヌ買ってきた。あとで紅茶入れてあげるね」 「わー。ありがとうございます」  瑛士さんがたまに買ってきてくれるお菓子は、とってもおいしい。 「あ。そういえば、水族館のおみやげも食べなきゃだね。後で持ってくるね」 「ふふ。太りそうですね。ごはんもいっぱいありますよ」 「まあ、凛太はもうちょっと太っていいよ」  そんな風に言いながら、瑛士さんが頭を撫でてくる。  ご飯をよそって、となりに置くと、瑛士さんはオレの顔を覗き込んできた。 「ヒート明けで学校行って疲れてない? またいっぱい作ってくれてるし」 「疲れてないですよ。早く帰ってきましたし。昨日まで全然何もしてなかったですし」 「無理しなくていいからね。あとは食べたらゆっくりしてて。片付けオレがやるから」 「一緒にやりますよ。大丈夫です」  よそったご飯とお味噌汁を持って、テーブルに並べる。瑛士さんはオレの隣の席にご飯を置いた。あ、こっち側に座るのか、と思っていると、雅彦さんが笑い出した。 「まあ――瑛士の気持ちは、なんとなく分かってはいたけどな。それにしても、早すぎないか、展開が」 「そうかな? まあでも、気持ちなんて固まる時は一瞬だと思うけど」  さらりと流してそう言うと、瑛士さんはオレを振り返る。  「凛太、もう運ぶもの、ない?」 「はい。あ、お酒とか、飲みますか?」 「オレはいらない。じいちゃん、飲む?」  雅彦さんも「お茶で大丈夫だよ」と微笑むので、オレと瑛士さんも、席に着いた。 「じゃあ――いただきます」  二人とも、手を合わせてからオレを見てくれるので、「どうぞ」と微笑む。  どうぞって。  誰かに言えるの、嬉しいし。  大好きな二人なので、ますます嬉しい。  二人は、みそ汁のお椀を手に取った。あ。同じ。   オレもなんとなくお椀を手に取って一口飲むと、出汁の香りがふわっと広がった。  瑛士さんと雅彦さんも、同じように最初のひと口を味わってから、ふわっと笑みを浮かべた。 「やっぱり、凛太のみそ汁、おいしい」 「ほんとにな。出汁が優しい」 「オレがみそ汁、飲みたいって頼んだんだよ。飲めて良かったね、じいちゃん」 「自分の手柄のように言うんじゃないよ」  おかしそうに笑い合ってる二人を見てると、胸の奥があったかくなる。  それから、ぶり大根を口に入れて、瑛士さんが「……うま」と呟く。  雅彦さんも頷きながら、ゆっくりと箸を進めていた。  ――こんなふうにおいしそうに食べてもらえるだけで、  なんでこんなに嬉しいんだろう。  そんな風に思いながら、オレも食べていく。  皆で食べるって、それだけでおいしい気がする。 「瑛士は、胃袋を掴まれた感じか?」  雅彦さんが冷やかすように言うと、瑛士さんがふっと笑って、目を細める。 「……いや。胃袋っていうか。なんだろうな」  んー、と考えながら、瑛士さんは隣に居るオレを見つめた。  え。なんか。  そんな考えながら見つめられると、めちゃくちゃドキドキしてしまうのですが。

ともだちにシェアしよう!