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137.いろんな緊張

 ◆◇◆  夕飯の片付けを終えたあと、瑛士さんが紅茶を入れてくれた。  おみやげのお菓子を瑛士さんが取ってきてくれて、マドレーヌもテーブルに並べると、雅彦さんが立ち上がりながら言った。 「瑛士、なにかレコードかけていいか?」 「ああ、オレかけるよ」  瑛士さんが部屋の隅に行って、準備をし始める。  あ。あの棚って、レコードだったんだ。なんだろうと思ってたんだよね。上に黒い箱がのってて下は扉のついた木の棚。  レコードって、初めて見るかも……。  瑛士さんについていって、後ろからそっと覗き込んでいると、隣においで、と笑われた。 「何で後ろにいるの」 「邪魔しちゃいけないかなと思って……レコードってそーっとするイメージで」 「大丈夫だよ」  くす、と笑う瑛士さんの隣に、今度はちゃんと立つ。  瑛士さんは慣れた手つきでカバーをパカッと開けた。下の棚を開けると引き出しが出てきて、レコードが縦に並んでいた。 「じいちゃん、何がいい?」 「何でもいいよ」  雅彦さんの返事を聞いた瑛士さんがオレを見下ろして、目が合うと、くすっと笑った。 「選んでいいよ、凛太」 「えっいいんですか?」 「うん。ものすごく、わくわくしてるし」 「あ。はい。してます」  完全にバレている。  初めて触るレコードに少し緊張しながら、触れてみる。指先でパラパラと手前に倒しながら、デザインと曲名を見ていく。 「わー……レコードって、カッコいいですね」  芸術品みたいに見える一枚を手に取って、そのデザインに魅入っていると、瑛士さんは、ふ、と微笑んだ 。 「いいよね。ジャケットが好きで買うこともあるくらいだから」 「わー。分かります。これ、好きです」 「ああ、それも、ジャケ買いしたやつ」  わあ、そうなんだ。  表面と裏面も見てから、オレは瑛士さんを見上げた。 「これが聴いてみたいです」  古い映画のワンシーンを切り取ったみたいなデザイン。どんな音楽が入ってるんだろうと、わくわく。 「ん、いいよ」  オレから受け取った瑛士さんが、盤のふちを丁寧に持って取り出す。 「こっちの面に触らないように持つんだよ」  柔らかい声で言いながら、瑛士さんがプレーヤーにセットする。スイッチを入れると、回り始める。  おお。この感じはテレビとかで見たことがあるかも……。 「ブラシでほこりをとるんだよ」 「へええ……おもしろいですね」 「やりたい?」  うんうん頷くとブラシを持たせてくれる。撫でるみたいに掃除が終わると、ブラシを片付けてから、瑛士さんがオレを見つめた。 「凛太、針を落とすの、やってみる?」 「えっ。オレ、できますか?」 「できるよ、おいで」  おいで? と思うと、後ろからオレの手に、瑛士さんの手が重なる。包まれるみたいな感覚がある。ちょっと、息が止まった。 「このレバーを持ち上げて、針先を、ゆっくり下ろすだけ。この端の溝にね」 「……はい」  いろんな意味で、指が震えそう。 「怖がらなくていいよ。そっとすれば大丈夫だから」  優しい声が、すぐ近くで囁く。  いろんな意味のドキドキと戦いながら、瑛士さんと一緒に針先を溝に触れさせた。ぷつ、と音がして、柔らかい音が、スピーカーから流れだした。 「上手」 「あり、がとうございます……」  瑛士さんがそっと手を放して、くすっと笑う。  オレはなんだか色んな意味で緊張した手をなんとなくこしこしこすり合わせながら、回転してるレコードを見つめる。 「緊張した?」  瑛士さんは、ふ、と優しく笑う。  多分瑛士さんは、レコードで緊張してると思ってるのだろうし。確かにそれも緊張はしてたんだけど。  ――瑛士さんが急に後ろからくっついてくるから……。  内心少し困りながらも、でも、スピーカーから流れる音楽に聞き惚れていると、雅彦さんが笑った。 「レコードなんて、見ないよね」 「あ、はい。むかしの道具、みたいなので見たことがあるくらいで……」 「オレが好きでかけていたら、瑛士もいつのまにか好きになっててね」  雅彦さんはくすくす笑ってそんな風に言う。 「そうそう。だからこっちの部屋にも置いたんだけどね。オレの部屋の方が、スピーカーも本格的だから。今度向こうにも、おいでね」  微笑んでくれる瑛士さんに頷きながら、テーブルに戻った。 ◇ ◇ ◇ ◇ 作者の事情ですが……。 xとか他サイトで書いてるところもあるので、何かでご存知の方もいるかもですが…… 11月から、とある事情がありまして、 投稿サイトの更新、離れておりました。 投稿サイトに載せるのをやめようかとも思ったのですが いろいろ考えて、やっぱり続けることにしました。 更新は、ぼちぼち再開していきたいと思います。 事情は、またちゃんと書けたら、置きます。考えて書かないとな文章なので めちゃくちゃ時間がかかってまして。 とにかく、私が投稿サイトに載せるのは、読者様との距離が近くて、 コメントやいろいろなリアクションを頂けるから。反応が近くて嬉しいから やっぱりそういうご縁を消したくはないなと。 またよろしくお願いします。 悠里

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