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141.別世界
瑛士さんが電話したら、今日で大丈夫ということになって、そのままエステに向かうことになった。
二十分くらい走ったところで、車を下りて、楠さんと別れた。
瑛士さんについて少し歩いて、あるオシャレな外観のビルに入った。これまたおしゃれなエントランスを通って、エレベーターに乗る。エレベーターの中も白くて明るい。外の夜景も、綺麗に見えた。
エステ。……なんかすごく、ドキドキする。
「凛太、緊張してる?」
「はい。ちょっと……いや、かなり……?」
笑いを含んだ瑛士さんの声に、オレは素直に頷いた。
すると瑛士さんは、ふ、と笑ってオレを見つめる。
「パーティーまで時間がないし、最低限のことだけすることになると思うから。大丈夫だよ」
「はい……」
頷くけど、何が最低限なのか分からず。なので、何がどう大丈夫なのかも分からない。
でも、今聞かなくてもついたら分かるだろうと、聞かずに階数表示を見ていると、エレベーターが止まった。
エレベーターを降りて歩きだすと、床が柔らかくて歩く音がしない廊下。……なんか、ここだけで高級そう。
「ごめんね、凛太、学校の帰りに突然連れてきちゃって」
並んで歩きながら顔を見上げると、瑛士さんは少し申し訳なさそうに眉を下げた。
「今日は顔を整えてくれるみたいだから、短めで済むと思うけど」
「まだ二十一時ですし。大丈夫ですよ」
そう言うと、瑛士さんは少し、言葉を探すみたいに一拍置いてから微笑んだ。
「ついてきてくれて、ありがとね」
「いえ……というか、オレのほうこそ、連れてきてくれてありがとう、なのではないかなと」
「だってエステなんて来たくないでしょ」
「いや、でも……瑛士さんの隣に立つからには……」
元が元だからそんなに変わらないとは思うけど、でも、出来るだけちょっとだけでも、ほんのほんのすこーーーしだとしても、ましになったらいいなとは、思う。
おしゃれな英語の文字が書かれているガラス張りの自動ドアが開いた。瑛士さんに続いて中に入ると、すごく明るくて静かで、とてもいい匂いがした。
豪華な照明と、白くて綺麗な空間。本当なら、オレの人生とは、一生かすりもしない場所かも……と、思いながらキョロキョロしてしまう。
「いらっしゃいませ、北條さま」
瑛士さんのこと、顔で分かるんだ。……なんだかよく分からないけれど、さすがだな、なんて思っていると、瑛士さんがにっこり「こんばんは」と微笑む。
「麻里さんに連絡してあるので、呼んでもらえる?」
「はい、今お呼びしますね」
そんな会話を聞きながら。
ここって、一回いくらするんだろう。
ていうか、オレ、場違いすぎるよ~。服、完全にいつも通りの普通の私服だし……いいのかな、こんな服装でここに入って。
ドキドキしていると、受付の人が、完璧な笑顔でこちらを見た。
もう、その笑顔だけで、もう帰りたい。
オレを連れてきた張本人の瑛士さん。オレの様子を見て、楽しそうにしてる。
「こちらでお待ちください」
案内されて、瑛士さんとふかふかの椅子に座らされる。
……ふかふかすぎて、落ち着かない。
そのとき。
奥のドアが静かに開いて、人が出てきて……一瞬、時間が止まった気がした。
出てきたのは、すごく、綺麗な人だった。
いや……綺麗なんて言葉じゃ足りない。それ以上、なんて言ったらいいんだろう。
凛としていて、でも歩く姿も、仕草もすごく柔らかい。体の線が出るスーツも、髪も、肌も……なんだかもう、全部が整っている感じがした。
「瑛士さん、いらっしゃい」
ふわりと、この上なく綺麗な笑みを、瑛士さんに向ける。
「麻里さん、ごめんね急に――よろしく。電話で話した、凛太、だよ」
瑛士さんがそう言うと、その人が、まっすぐこちらを見る。
睫毛の長い大きな瞳に見つめられて、息が止まってしまう。
「美形な人」には、瑛士さんで少し慣れた気がしてたけど、女性だとまた少し違うみたい。
派手というわけじゃないけど、肌が白くて瞳が大きくて、輪郭が、すごく綺麗。
しわとかたるみとか、一切ないというか……。
この人を見たら、このエステに通いたくなるんじゃないかなあって、ふと、思った。
その大きな瞳が、オレを見て、少し緩んだ。
値踏みされてるとかそんな感じじゃない。でも、じっと見つめられる。
……わー。もう、ただただ、綺麗。
頭の中で、そう思ったけど、口には出せなかった。
綺麗な人だけど……それを振りかざさない感じ。でもきっと、心、強そう。
いろんな意味で、自分とは、別世界の人な気がする。
……でも、瑛士さんとは、同じ世界の人。
ていうか、そもそも、瑛士さんがオレにとって、本来別世界の人だもんね。
なんて思っているところに、瑛士さんが、オレを見て言う。
「麻里さんは、ここの社長さんだよ」
そう聞いて、妙に納得した。
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