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143.お似合いなのは

「いってらっしゃい、凛太。麻里さん、よろしくね」 「お任せください」  にっこりと、綺麗な笑顔を交わしてる二人を見ながら、「いってきます」と瑛士さんに向けて言うと、ん、と楽しそうに頷きながら、手をひらひらさせていた。  それから麻里さんが更衣室を案内してくれて、ロッカーのカギを渡される。 「上だけ脱いで、この施術着に着替えて待っていてくださいね。荷物は全部ロッカーで、鍵だけ持ってください。私もすぐに用意してきますので」  そう言って、麻里さんが更衣室を出て行った。  更衣室も豪華だなぁ……なんて思いながら、上だけ脱いで着替える。  瑛士さんと知り合ってなかったら、一生足を踏み入れてない場所だなあ。  顔、なにするんだろ? 保湿って言ってたから、化粧水とか??  首元が広めの、前開きのブラウンのシャツに着替えて、鏡で顔を見た瞬間、コンコン、とノックの音。 「凛太さん、着替えは終わりましたか?」 「はい、終わりました」  なんだか焦りつつ、急いでドアを開けて出ると、麻里さんも着替えていた。  ネイビーのワンピース型の制服、かな。清潔感とプロっぽい雰囲気がなんだかすごい。  こんなユニフォームみたいなのでも、びっくりするくらい綺麗だった。 「こちらにどうぞ」  案内された部屋は、なんだかまたいい匂い。  少しだけ照明が落とされていて、柔らかいオレンジ色だった。 「ベッドに横になってくださいね」  言われるまま、ベッドに横になると、そのふわふわ感にびっくり。すごいふっかふか。  密かに感動していると、麻里さんがすぐそばに来て、足元から胸元まで、温かくて柔らかい大きなタオルをかけてくれた。なんだかすごく、気持ち良い。 「まずはリンパのマッサージからしていきますね。すごくすっきりしますよ」 「あ、はい。お願いします」 「首元、開けますね」  そう言われて、はい、と頷くとボタンを外されて開かれる。  麻里さんが頭の方に回って、首に触れた瞬間、勝手に体に力が入った。 「……緊張してますか?」  いいえ、と言いかけて、言葉に詰まってしまった。  めちゃくちゃ、緊張してるかも。  すると、麻里さんがくすっと笑った気配がする。 「大丈夫ですよ、痛くはしませんから」  痛そうと思ってるから緊張してる訳ではなくて、もうこの雰囲気ぜんぶなのだけど……。  ちょっと苦笑してしまいそうになりながら頷くと、改めてそっと首に触れられた。麻里さんの優しい触れ方に、ほっとする。 「力は抜いて、楽にして、目を閉じていてくださいね。気持ち良かったら、眠ってしまっても大丈夫です」 「はい……」  あ、閉じてていいんだ。よかった。どこを見てたらいいのかと思った。  そう言ってもらえて、ほっとして、目を閉じる。  麻里さんの声は落ち着いていて、近くで聞くと不思議と安心する響きがあった。  説明される言葉もゆっくりで、すごく柔らかい。  麻里さんの手が、首の後ろや肩甲骨のあたりまで入ってくる。ぐっと指をいれられたところが気持ちいい。耳の後ろから鎖骨へと指が滑り降りて、心地いい力加減で、首元のリンパを流していく。 「首のリンパが詰まっていると、お顔のむくみも取れないんですよ」  そんな風に言いながら、動かす麻里さんの手は、なんだかものすごく気持ちいい。  ……わあ、すごい、これ。首の筋肉、こり固まってたのかな。勉強する時、固まってるもんね……。  緊張してた筋肉が、ゆっくり解けていくみたいだった。  気持ちいい。寝ちゃうのはもったいないくらいかも。  そう思って、頑張って起きたまま、そのマッサージが終わった。  次はクレンジングだって。顔が泡だらけになる。 「毛穴の汚れが取れるだけでも、透明感がぜんぜんちがいますから」  そう言われて、でも泡だらけなので返事は出来ないし、目も開けられない。小さくうんうん、頷いてみると、麻里さんがくすくす笑ってる。  声のトーンが穏やかで、目を閉じて聞いていると、ほっとする。  言葉遣いも丁寧で……素敵な人だなぁ、と思う。  ふ、と。  さっき、瑛士さんと麻里さんが楽しそうに笑い合ってたところが、頭に浮かんだ。  ――なんかすごく自然で、似合ってた気がする……。  少し熱めの蒸しタオルで顔を拭かれて、さっぱりしたところで、ふ、と顔周りに違和感。  首とか顔周りの感覚が、違う気がする。すっきりしてて、びっくりした。  オレの思ってることが分かったみたいで、「大分すっきりしますよね?」と麻里さんが笑った。  はい、と頷くと、「次はお顔をマッサージしていきますね」と言われて、麻里さんの指が頬に触れる。  それから、少し冷たいローションが頬に触れる。肌になじんで、すぐに温かくなる。  麻里さんの指は丁寧にゆっくり、頬からこめかみへと滑っていく。  触れられることに少し慣れてきた頃。 「再来週のパーティーまでには、見違えるほどシュッとしますよ」  そう言いながら指を滑らせる。  すごく気持ちがいい、うっとりしそうな心地の中。    パーティーか。  それまでに、少しでも良くなればいいなぁとは思うけど、エステってどうなんだろう。気持ちいいってことだけは、もう絶対だけど。 「瑛士さんにとっては、すでに可愛くてしょうがないそうなので、必要ない気もしますけどね」  ふふ、と笑いを含んだ声で言う、麻里さんの手は、温かくて滑らかで気持ちいい。    ……正直、何て答えたらいいのか分からない。  瑛士さんて、オレのこと、可愛いって言いすぎだってば……。  こんな綺麗な人にまで、可愛いって連呼されちゃうとやっぱり恥ずかしいし。  そこで、ふ、と思う。  ――オレじゃなくて、麻里さんに、婚約者、頼んでたらよかったのでは?  この人なら、めちゃくちゃお似合い……。  そこまで考えたけど、胸のあたりがなんだかモヤつくような気がして、考えるのをやめた。  

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