149 / 150
143.お似合いなのは
「いってらっしゃい、凛太。麻里さん、よろしくね」
「お任せください」
にっこりと、綺麗な笑顔を交わしてる二人を見ながら、「いってきます」と瑛士さんに向けて言うと、ん、と楽しそうに頷きながら、手をひらひらさせていた。
それから麻里さんが更衣室を案内してくれて、ロッカーのカギを渡される。
「上だけ脱いで、この施術着に着替えて待っていてくださいね。荷物は全部ロッカーで、鍵だけ持ってください。私もすぐに用意してきますので」
そう言って、麻里さんが更衣室を出て行った。
更衣室も豪華だなぁ……なんて思いながら、上だけ脱いで着替える。
瑛士さんと知り合ってなかったら、一生足を踏み入れてない場所だなあ。
顔、なにするんだろ? 保湿って言ってたから、化粧水とか??
首元が広めの、前開きのブラウンのシャツに着替えて、鏡で顔を見た瞬間、コンコン、とノックの音。
「凛太さん、着替えは終わりましたか?」
「はい、終わりました」
なんだか焦りつつ、急いでドアを開けて出ると、麻里さんも着替えていた。
ネイビーのワンピース型の制服、かな。清潔感とプロっぽい雰囲気がなんだかすごい。
こんなユニフォームみたいなのでも、びっくりするくらい綺麗だった。
「こちらにどうぞ」
案内された部屋は、なんだかまたいい匂い。
少しだけ照明が落とされていて、柔らかいオレンジ色だった。
「ベッドに横になってくださいね」
言われるまま、ベッドに横になると、そのふわふわ感にびっくり。すごいふっかふか。
密かに感動していると、麻里さんがすぐそばに来て、足元から胸元まで、温かくて柔らかい大きなタオルをかけてくれた。なんだかすごく、気持ち良い。
「まずはリンパのマッサージからしていきますね。すごくすっきりしますよ」
「あ、はい。お願いします」
「首元、開けますね」
そう言われて、はい、と頷くとボタンを外されて開かれる。
麻里さんが頭の方に回って、首に触れた瞬間、勝手に体に力が入った。
「……緊張してますか?」
いいえ、と言いかけて、言葉に詰まってしまった。
めちゃくちゃ、緊張してるかも。
すると、麻里さんがくすっと笑った気配がする。
「大丈夫ですよ、痛くはしませんから」
痛そうと思ってるから緊張してる訳ではなくて、もうこの雰囲気ぜんぶなのだけど……。
ちょっと苦笑してしまいそうになりながら頷くと、改めてそっと首に触れられた。麻里さんの優しい触れ方に、ほっとする。
「力は抜いて、楽にして、目を閉じていてくださいね。気持ち良かったら、眠ってしまっても大丈夫です」
「はい……」
あ、閉じてていいんだ。よかった。どこを見てたらいいのかと思った。
そう言ってもらえて、ほっとして、目を閉じる。
麻里さんの声は落ち着いていて、近くで聞くと不思議と安心する響きがあった。
説明される言葉もゆっくりで、すごく柔らかい。
麻里さんの手が、首の後ろや肩甲骨のあたりまで入ってくる。ぐっと指をいれられたところが気持ちいい。耳の後ろから鎖骨へと指が滑り降りて、心地いい力加減で、首元のリンパを流していく。
「首のリンパが詰まっていると、お顔のむくみも取れないんですよ」
そんな風に言いながら、動かす麻里さんの手は、なんだかものすごく気持ちいい。
……わあ、すごい、これ。首の筋肉、こり固まってたのかな。勉強する時、固まってるもんね……。
緊張してた筋肉が、ゆっくり解けていくみたいだった。
気持ちいい。寝ちゃうのはもったいないくらいかも。
そう思って、頑張って起きたまま、そのマッサージが終わった。
次はクレンジングだって。顔が泡だらけになる。
「毛穴の汚れが取れるだけでも、透明感がぜんぜんちがいますから」
そう言われて、でも泡だらけなので返事は出来ないし、目も開けられない。小さくうんうん、頷いてみると、麻里さんがくすくす笑ってる。
声のトーンが穏やかで、目を閉じて聞いていると、ほっとする。
言葉遣いも丁寧で……素敵な人だなぁ、と思う。
ふ、と。
さっき、瑛士さんと麻里さんが楽しそうに笑い合ってたところが、頭に浮かんだ。
――なんかすごく自然で、似合ってた気がする……。
少し熱めの蒸しタオルで顔を拭かれて、さっぱりしたところで、ふ、と顔周りに違和感。
首とか顔周りの感覚が、違う気がする。すっきりしてて、びっくりした。
オレの思ってることが分かったみたいで、「大分すっきりしますよね?」と麻里さんが笑った。
はい、と頷くと、「次はお顔をマッサージしていきますね」と言われて、麻里さんの指が頬に触れる。
それから、少し冷たいローションが頬に触れる。肌になじんで、すぐに温かくなる。
麻里さんの指は丁寧にゆっくり、頬からこめかみへと滑っていく。
触れられることに少し慣れてきた頃。
「再来週のパーティーまでには、見違えるほどシュッとしますよ」
そう言いながら指を滑らせる。
すごく気持ちがいい、うっとりしそうな心地の中。
パーティーか。
それまでに、少しでも良くなればいいなぁとは思うけど、エステってどうなんだろう。気持ちいいってことだけは、もう絶対だけど。
「瑛士さんにとっては、すでに可愛くてしょうがないそうなので、必要ない気もしますけどね」
ふふ、と笑いを含んだ声で言う、麻里さんの手は、温かくて滑らかで気持ちいい。
……正直、何て答えたらいいのか分からない。
瑛士さんて、オレのこと、可愛いって言いすぎだってば……。
こんな綺麗な人にまで、可愛いって連呼されちゃうとやっぱり恥ずかしいし。
そこで、ふ、と思う。
――オレじゃなくて、麻里さんに、婚約者、頼んでたらよかったのでは?
この人なら、めちゃくちゃお似合い……。
そこまで考えたけど、胸のあたりがなんだかモヤつくような気がして、考えるのをやめた。
ともだちにシェアしよう!

