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144.自分じゃないみたい

 麻里さんの声は、なんだかほっとする。  こんな雰囲気の人は、オレの周りにはいないなあ。大人の女の人って感じがする。  穏やかで優しくて、ふわふわ笑ってる。  マッサージが終わると、冷たい機械で頬を引き締める感覚にちょっと頬に力が入る。でも、そのひんやりも、すごく気持ちいい。  鼻パックもして、それを取ってから、うるうるに潤んだパックで顔全体をおおわれた。 「パックをしてる間に、頭皮のマッサージをしますね」  パックで口が開けないので少しだけ頷くと、すぐに麻里さんの手が頭に置かれる。髪の毛の中に手が入って、ぐ、と押される。少し強めの圧で、押しては離して進んでいく。  最高かも……。  頭に血が流れるみたいな。なんだか、ぽかぽかしてくる。  本気で眠たくなってきたところに、麻里さんに話しかけられた。 「次回からは、小顔マッサージや、低周波マシンと……脱毛もしてみましょうか。産毛が無くなると、肌がもっときれいに見えますよ。あとはスペシャルパックでお肌をつやつやにできますから、時間を見つけて来てくださいね」  言いながらマッサージを続けてくれる。  んん。スペシャルパックって何だろ。今日ので十分スペシャルだけど。脱毛……痛いのかな? 低周波マシンっていうのは、なんかちょっと怖そうだけど気になる。 「普段、少し気を付けてほしいんですが……塩分を控えて、お水をしっかり飲んで、早めに寝てくださいね。それが、一番の美容法なので」  オレはまた、小さく頷いた。  最近瑛士さんと寝てるから……なんかすごくよく眠れてる気がするんだよね。  寝室で、抱き締められて眠る自分を思い起こして、内心すごくほっこりする。 「と言ってもやっぱりお手入れも大事なんですけど、化粧水はいつも使っていますか?」  そう聞かれて、首を小さく振ると、麻里さんは続ける。 「瑛士さんの化粧水、かなりいいものなので、それを借りて二週間の間だけでも、しっかり保湿してみてください。普段のお手入れでも変わるので」 「……」  それも頷くと、麻里さんはそこから黙ってマッサージを続けてくれる。  ふむ。――瑛士さんの化粧水、知ってるんだ。  それって、もしかして、使う時、一緒にいた……とか? って分かんないけど。うう。考えない考えない……。  それに、瑛士さんの化粧水でいいのでって言ってるってことは、オレが瑛士さんのところに住んでるっていうのも知ってるってことだよね。……話したんだ、瑛士さん。  麻里さんは、どう思ってるのかな。  なんだかいろいろ考えている間にマッサージが終わって、パックが外された。  それからまたクリームを塗られて、最後に肌をなぞられる。  ――なんだか。自分で触らなくても、分かる。  肌がぷるぷる瑞々しいような。潤ってる感があって驚く。 「凛太さん、ゆっくり起き上がってくださいね」  そう言われて、ベッドに手をついて起き上がると、麻里さんはオレの顔を見て、ふ、と笑う。 「イイ感じです。瑛士さんの反応が楽しみですね」 「そうですか……?」  確かに気持ちはよかったし、すっきりしてるけど、分かるのかな……?  そう思っていると、麻里さんが少し背をかがめて、オレの前髪を少しあげながらじっと見つめてくる。視線は合わず、オレの目の上あたりを見ている。 「凛太さん、ほんの少しだけ眉を整えてもいいですか?」 「眉は、触ったことないんですけど」 「ええ。形がいいので、全然そのままでも大丈夫ですよ。ただパーティー用に、整えてみてもいいかなと思って」  お願いします、というと、「一度、目をつむっていてくださいね」と麻里さんが言う。  そっと静かな手つきで、少しの間眉に触れている間、部屋の中の香りとは違う、石鹸みたいな、イイ匂い。  清潔で、麻里さんにぴったりな香りだなあ……と思っていると。 「はぃ、終わりです。お疲れさまでした」 「ありがとうございました。……めちゃくちゃ気持ち良かったです」  そう言って笑顔になったオレは、笑った肌の感覚が違う気がして、思わず頬に触れた。なんだかすごくすっきりしてるし、しっとりしてて、手が吸い付くみたいな感覚に驚いた。両手で頬に触れると、麻里さんが「気持ちいいでしょう、お肌の手触り」と、微笑んだ。 「はい。見てみてください」  大き目な鏡を、目の前に差し出されて、自分を見ると――ほんの三十分くらい前とは、だいぶ違うが、一目で分かった。  ちょっと自分じゃないみたい。めちゃくちゃすっきりしてる。自然とちょっと、背筋が伸びた。  瑛士さん。分かってくれるかな……なんだか早く、見てもらいたいな。 「もともとたるみは少ない方でしたけど、でも、全然違うでしょう?」 「はい……よっぽどよどんでたんですね、オレの顔……」 「よどんでた訳じゃないですけど」  クスクス笑って、麻里さんがオレを見つめる。 「普段お手入れをしていないから乾燥していたのと、あとは、下を向くことが多いから、顎や首にどうしてもたまっちゃうんですよね。それを流したのが大きいと思います」 「確かにオレ、ずっと下向いてるかもしれないです……」 「たまに上を向いて首を伸ばしたり、肩甲骨を動かしたりしてみてください――あとは、リンパを流すといいですよ」 「はい。思い出した時、やってみます。ありがとうございます」  麻里さんはオレを見つめて微笑むと、少し視線を落とした。 「凛太さんは、素直ですね」  言い方が気になって俯いた麻里さんを見つめる。すると、すぐにふっと笑って視線を上げて、オレを見つめて瞳を細めた。 「ゆっくり下りて、更衣室で着替えてくださいね」 「あ、はい」  促されて、ベッドから降りると、麻里さんが更衣室へのドアを開けてくれた。 「着替えが済んだら、先ほどの受付のところに戻ってくださいね。私もすぐ行きますので」 「分かりました。ありがとうございました」    更衣室に向かいながら、瑛士さんに早く見てもらいたくて、ちょっと口元が緩んで、早足になる。    ――褒めてくれるかな……? あ、でも、分かんなかったりして……??  いろいろ考えてしまう。

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