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146.自分の心のなか
ハーブティーはおいしくてホッとするし、顔周りはなんだかめちゃくちゃすっきりしてて気分がいい。気持ち良かった。
瑛士さんも麻里さんも褒めてくれて嬉しい。
なのに、なんでこんなにどんよりするんだろう。
――瑛士さんと会ってからのオレは、気持ちが忙しい。前のオレは、わりと常に一定でいられた。
まず医者になる、それから薬を作る。
Ωの味方になる。だからSNSも頑張るし、勉強も頑張る。
それだけをただひたすら頑張ってれば、生きてこられた。
βとして普通に生きて、オレがΩだと知ってるのは竜だけだった。特に言及してくることもなかったし、医者を目指して一緒に頑張る、すごくイイ仲間で友達。
オレをΩと知ってて態度を変えないし、気も合うし、好きだし、話してると普通に楽しかったし。だから、一番距離が近いのは、竜だった。
そこに、突然現れた、強烈すぎる瑛士さん。
――全然気にしてなかったけど、オレはたぶん、瑛士さんに会ってから、今まで感じないようにしてきた感情が、表に出てきちゃう。
寂しいとか。しみじみ嬉しいとか。いろんな感情がごちゃ混ぜでどうしていいかわからないとか。そういうのは、初めてで――どう対処したらいいのか、分からない。
素敵すぎる瑛士さんの周りには、同じようにキラキラしたした人達がたくさんいる。類は友を呼ぶ、なのかな。瑛士さんが紹介してくれた何人かは皆、すごく素敵な人達だ。
――瑛士さんは、オレにあんなこと言ってくれたけど。
やっぱり、全然分からない。
冷静に考えて、オレを選ぶ理由って何だろうって思うと、全然答えが出ない。
最初に気に入ってくれたのは、料理かもしれないけど。
あれだって、おばあちゃんのレシピから来てるから、気に入ってくれるの理由がもう明確。懐かしい味だったんだろうと思うし。
――レシピノートがあったら、基本的に誰でも作れる。
そして、今の状況で何が問題なのかは、ちゃんと自覚している。
何で瑛士さんがオレを選んでくれるのかが分からないし、不思議だって思ってるくせに、オレは瑛士さんがそれを言ってくれることが、すごく嬉しく感じちゃってて――。
瑛士さんの周りにいる素敵な人達と、まだ見たこともないけど、もっとたくさんいるだろう、すごい人たちに、引け目みたいなものを感じちゃってるってこと。だよな。
卑屈になってる訳じゃない。ただ事実として、本当なら縁の無い人だ。
あそこで、たまたま会って、たまたま瑛士さんが、ちょうどいいかもって思ってくれて、契約を持ちかけてくれただけ。
最初は、隣に住むだけで、接点も契約だけだったはずなのに。
今のこの不思議な関係が、オレはきっと。
すごく、嬉しいんだと思う。
でも、冷静に考えると、瑛士さんは絶対、雲の上の人なんだよなぁ。
なのに、オレ――この縁が続いたらいいって、思っちゃってるから。
……でも、オレには別に何もないし。
さっき聞いちゃった話も――オレにもっと自信みたいなものがあったら、落ち込むこともないんだろうし。
逆にもっと関係ないと思えていれば落ち込むこともないのに、そこもちがうし。
でも、落ち込みながらも、納得もしてる。
なんて言うか……。
あの人たちが言ってたことが分かりすぎるから、むしろ、そうだよねぇ、って仲間に入りたいくらいだったもんなぁ。
「凛太、眠い?」
瑛士さんが静かにハーブティーを飲んでるオレを見て、そんな風に聞いてきてくれる。ずっと喋らないでいたからだと思う。すぐに、いえ、と答えて、笑って見せた。
「あ、でも、さっきマッサージは気持ちよすぎて、眠くなっちゃいましたけど」
「あら、それは良かったです。でも凛太さん、寝ないで頑張ってたでしょう? 次の時はもう、気兼ねなく眠ってしまっても良いですからね」
ふふ、と笑う麻里さんの綺麗な笑顔に思わず見惚れながら。
「すごく気持ちよかったので、寝ちゃったらもったいないと思って」
思うままにそう言うと、麻里さんは「それは光栄ですね」とくすくす笑った。
「凛太さん、お肌、もちもちしてるでしょう? ご自分で触って、どう思いますか?」
ちょうど飲み終えたカップをテーブルに置いて、自分の両頬に手を当てる。しっとりしてて、指の触感が、いつもと全然違う。
「多分、生きてきて一番、もちもちしてますね」
「そうでしょう」
麻里さんがふふ、と嬉しそう。
こんな風に笑うと、可愛く見えるなぁと、また見惚れる。
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