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151.普通とは。
「ああ、もう――ほんと、可愛いな」
抱きしめられたまま、よしよしと撫でられる。しばらくして、瑛士さんはオレを少し離すと、じっと見つめながら言った。
「オレが可愛いと思ってればいいって、言ったけどさ」
そう言って、すり、と頬に手を触れさせる。
「凛太は可愛いよ。たまに心配になるくらい自信なさそうに見えるけどさ。瞳も唇も鼻も髪もほっぺも。どこ見てても可愛い」
「――」
「自信持っていいよ」
うーん……。それは無いな、と思うのだけれど。
瑛士さんの優しい瞳を否定はしたくないなと思って、小さく、頷いてみた。
「オレと釣り合わないとか、誰かが思うなら余計なお世話だし。それにさ」
「……?」
「オレと凛太がいるとこを見てる人達は、オレが凛太を可愛がり過ぎって、注意してくるレベルだからさ。多分、他の人もそう思うんじゃない? 釣り合わないとか、思わないと思うよ」
オレをまっすぐに見つめて「ねっ」と微笑む瑛士さんを見つめ返していると、なんだか、ほわほわとした気持ちに、ちょっとなってくる。
「ん。ちょっと、気持ちあがった?」
「……はい」
頷いて見上げると、瑛士さんは目を細めて、微笑んだ。
「あのさ。オレのこと、なんかすごい人だと思ってる?」
「……はい。それはそう、ですね」
「例えば、どこが?」
「全部ですけど……見た目もですし。ランク……というか……」
そこまで言って、オレはちょっと黙った。言ってて、なんだか少し、違う気がしてきたから。
……それから、瑛士さんを見上げる。
「全部すごいんですけど……瑛士さんは中身が一番すごいです」
そう言うと、苦笑しながら瑛士さんはオレを見る。
「中身って?」
「性格とか、考え方とか……話す言葉、とか。なんか全部です」
「ふうん……?」
瑛士さんはくすっと笑ってちょっと肩を竦めさせた。
「――オレも普通だよ? 疲れて寝れなくて酒飲んだり、恋愛から逃げたりさ。立場とかαのランクとかも自分の力じゃないしね。オレ、結構普通だと思うんだけどな」
苦笑しながら言うけど。……んん。普通とは、なんだっけ。と考えてしまう。
でも瑛士さんは、そんなこと言っても、やっぱりすごいと思う。
普通の人から見たらものすごいことをたくさんしてるから疲れるのだろうし、立場や能力や、αってことも含めて、大変なこともあると思うのに、いつも優しくて、人を助けたりしてて、あったかい。
普通ではないと思うのだけれど。
「オレが全然気合入れずに、普通でいられるのが――凛太なんだよね……」
「……え」
そんな言葉が不思議でまっすぐ見つめると、瑛士さんは笑いながらオレの頬をやわらかく摘まむ。
「楽しいし、楽だし、可愛いし――オレは、結構たくさん癒してもらってる。こんな年下の子に頼ってるのって自分でも少し思うとこはあるんだけどさ。でも、そういうのって相性みたいなものもあるから、年は関係ないのかなーと思ってる」
もう片方の頬にも手がかかって、両方、瑛士さんの手に包まれる。
手があったかくて、胸の奥が、きゅ、と締め付けられる。
「……オレに、頼って、るんですか?」
「うん。結構頼ってると思わない?」
「……ごはん、くらいかなと?」
「それはそうだけど。全然それだけじゃないんだよね」
瑛士さんはくすくす笑って、オレを見つめる。
瑛士さんは、絶対すごい人だけど。
……瑛士さんなりにいろいろあって。
オレと、同じように。
不安になったり、悩んだり。するのかな。
そんな瑛士さんが、オレのことを、頼ってくれてる、とか――。
だからいつも。一緒にいてくれるんだろうか。
いつも、隣でニコニコしてくれているのだろうか。
……すごく、すごく。嬉しいかも。
見つめ合って、くす、と微笑み合うと、瑛士さんが少し首をかしげて、綺麗な笑みを浮かべた。
「ね。……キス。してもいい?」
オレは。
何も答えられなかったけど。
目の前で、キラキラしている紫の瞳に、嫌なんて言える訳なくて。
触れたいって。触れてほしいって、思ってしまって。
瑛士さんの瞳を見つめたまま、ゆっくりと少しだけ目を伏せていくと。
ほんの一瞬だけ沈黙がおこる。
自然と見あげると、目が合った瑛士さんの瞳が優しく緩んだ。
瑛士さんの瞳。本当に、綺麗で優しすぎて。
――ドキドキする。
それから、ゆっくり近づいてきて、柔らかい感触が重なった。
触れた途端、唇から一気に熱が広がるみたいな感覚がして。
身体が勝手に震えた。
――瑛士さん。
心の中で呼んで。少し深く重なった唇を、受け入れた。
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