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153.ありがと
いろんなことを考えて一人で恥ずかしがりながら、鍋のミルクを見つめる。
沸騰させちゃうとハチミツの効能消えちゃうから、適度で……なんて思っていたら、瑛士さんが戻ってきた。すぐ隣に立って、「温め直してくれてるの?」と聞いてくる。
「あ、はい」
「ありがと」
優しく言われて、ふ、と瑛士さんを見上げると、「ん?」と微笑む。
ありがとって。
――嬉しいなあ。
一人だと、言われないし、自分も言えない言葉だもんね。
誰かと一緒に居られるから、使える言葉。
――瑛士さんは、いつも、優しい言葉をくれるから。一緒にいて、楽しい。
マグカップに淹れなおして、鍋を洗っている間に、瑛士さんがローテーブルまで運んでくれた。
「ありがとうございます」
「うん」
さっきまで座っていたソファに戻って、一口飲む。
温かくて、ほっとする。
「凛太にさ」
「はい?」
「ありがとうって言われるの、好きだなぁ、オレ」
「え」
んん。さっきオレが考えてたこと、読み取った? と思って、瑛士さんをマジマジと見てしまう。瑛士さんはオレの顔を見て、ふ、と笑った。
「オレ、そんな変なこと言った? びっくりした顔してるけど」
「あ、いえ。そうじゃなくて。――さっきオレも、ホットミルク温めてて、ありがとって言われて嬉しかったので」
「――ふうん……そうなんだ」
瑛士さんはオレを見つめ返して微笑むと、オレの頬に手を伸ばして、ふに、とつまむみたいにして触れた。
「ありがとって、仕事中とかもよく言うけど……こんな風にゆっくり一緒にいて言ってると、改めて嬉しいのかも」
そんな風にしみじみと言ってくれる瑛士さんに、なんだか胸があったかくて。なんか。ふわふわと、気持ちが軽い。
それからなんとなくくっついて座ったまま、それぞれやりたいことをする。本を読んでると、くい、と引き寄せられて、瑛士さんの腕によりかかる。
大きなクッションは向こうの部屋にあるけど。……瑛士さん、十分クッションのかわりになっちゃうかも。なんて思いながら。
しばらくそのまま。
静かな音楽と、瑛士さんの叩くパソコンのキーボードの音が、耳に心地いい。――キリがいいところで本を読み終えて、SNSを開いた。
いくつかの相談や質問があって、フォロワーさん達同士で盛り上がってる。大体はいつもの雑談とか、Ωあるあるで、面白おかしく書いてる人も多い。表も裏も、大丈夫そうかなぁ、と思ったとき。
――ひとつ気になるものが目に入ってきた。
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