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155.責任重大?
「今日はさ、こっちのベッドで寝てみる?」
「え」
「たまにはさ」
「――じゃあ、ご飯だけセットしてきていいですか?」
そう言うと、瑛士さんがくすっと笑って頷いた。
「ベッド整えて待ってる」
「はーい」
一旦部屋に帰って歯磨きとご飯の予約をしてから戻ると、「こっちこっち」と何だか楽しそうに廊下を進んでいく瑛士さん。……またちょっと可愛い。
ここで寝るのは初だし、寝室に入るのも初めて。
どうぞ、と誘われて中に覗くと、びっくりするくらい広い寝室に、思わず足が止まった。
入ったことないけど、ホテルのスイートルームとかの寝室ってこんな感じなのかなあ? とか。それともここ、もっとすごいのかなあ、とか。いろいろ頭に浮かぶ。
部屋の真ん中にある深い紺色のベッド。落ち着いた色。瑛士さんがここで寝るの、すごく似合う。
整えとくって言ってたけど、多分いつもきれいなんだろうな。
天井もなんだかものすごく高いし、明かりは眩しくない程度のやんわりとした感じ。居心地、いい。
壁には分厚い本とか、オシャレな飾りが並んでる。
――めっちゃオシャレ。
「興味津々?」
「なんか……ホテルみたい?」
瑛士さんはくすっと笑うと、「おいで」とオレの手を引く。窓の向こうには夜景が広がっていて、映画のワンシーンに使えそうだなあ、と眺めてしまう。
手を引かれるまま、ベッドの端に腰かけた。座り心地がよくて、ふとベッドに触れてみる。深い紺色の布地は、触った感じもなめらか。
「瑛士さん、こっちのベッドの方が、好きなんじゃ……?」
思わず言うと、瑛士さんは、ん? と首を傾げた。
「向こうのベッドもすっごく寝心地いいと思ってましたけど、なんか、こっちはもっと……?」
「あーそうだね、眠れないって言ったら、京也さんとかが、めっちゃいいベッド見つけてきて……」
はは、と笑って瑛士さんが言う。
「――ここでも、眠れなかったんだよね……枕とかも、これ、すごくいいものなんだけど」」
瑛士さんが後ろの枕を振り返りながら苦笑する。
ふ、と視線をオレに戻して来て、くすっと笑った。
「今日は、ここでも眠れるかな……」
ふ、と瞳をゆるめて、オレを見つめてくる。
え。それってオレと眠れるかなってことなら、なんか、責任重大なのでは。眠れるかな、瑛士さん。眠れなかったらどうしよ。
……眠れるといいな。
じっと見上げていると、瑛士さんはぷっと笑った。
「何考えてる?」
「眠れなかったらどうしようって。眠れたらいいなって、思ってましたけど……責任重大ですね、オレ」
「責任……はないけどね」
ぷぷ、と笑いながら瑛士さんは歩いていって窓際に立つと、その重そうなカーテンを静かに閉めた。
夜景が見えなくなると同時に、急に空間が閉ざされたみたいな。
すごく静かになった気がする。
振り返る瑛士さんは優しく微笑んでて――なんか絵の中の人みたい。
ドキ、と胸が揺れる。
なんでこんなに綺麗な人と、オレはこんな部屋にいるのだろうと、また思ってしまう。
「……凛太」
近づいてきた瑛士さんは、そっとオレの頬に触れる。
そのまま瑛士さんの腕の中に入ると、そっと抱き締められた。
包まれるとなんだかよけいに――めちゃくちゃ、静か。
そのまま、ベッドに横になって、ふんわりした布団に一緒に入る。
「――凛太は、枕が変わると眠れない、とか無いの?」
「オレは、どこでも寝れますよ。ていうか、枕無くても平気です。いや、ベッドじゃなくても……」
結構自慢。どこでも眠れるからね、オレ。
ふふ、と笑いながら言うと、瑛士さんが柔らかく笑って、その揺れが優しく伝わってくる。
「頼もしいね……」
「……頼もしくはないですけど」
くすくす笑い合う。
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