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156.ここにいても

 瑛士さんが手を伸ばして、リモコンで照明を落とした。  それからまた、オレを腕の中に抱き締め直す。 「――ああ、そういえば……お父さん、連絡した?」 「はい。メールは送りました」 「返事きた?」 「……来てたんですけど、明日返事します」 「会ってくれそう?」  ……良かった。今聞いてくれて。  顔、見られなくて済むから。 「――あの……瑛士さんがすごすぎて、信じられてないみたいで」 「んん?」 「会うとか、そういう話までたどり着いてないんですが……」 「ああ、なるほど……もしかして詐欺か何かだと思われてる?」 「……とにかく瑛士さんみたいな人がオレと結婚とかありえないから、偽物だと思ってるみたいで」  瑛士さんは苦笑してる。オレは、ふーと息をついて、気合を入れて言ってみた。 「明日電話してみますね」  うん。がんばろ。そう思っていると。  瑛士さんがふ、とオレの顔を覗き込んできた。   「……いいよ。凛太。オレ、明日、空いてる日何候補か出して送るから、それそのままお父さんに送って」 「――」 「会えれば、オレが信じてもらうよう話すから。会う日取りだけ、決めてくれたらいいよ。電話、しなくていい」  え、そんなの――いいのかな。全部瑛士さんに預けるみたいな……。  困っていると、またすっぽりと抱き締められた。 「電話しないでいいよ。……あんまりしたくないでしょ」 「――瑛士さん、あの……あの人に会うと、嫌な気持ちに、なるかも」  瑛士さんの背中の服、きゅ、と握り締めてしまう。 「大丈夫だよ。どんな人か、面接の気持ちでいくから」 「……面接、ですか?」 「そ。面接」 「その面接、あの人、落ちたら?」 「――落ちたら……? んーまあ。凛太のお父さんだから、相当甘めの面接で行くつもりだけど。でも、それでもだめなら」  そこで一度黙ってから、瑛士さんはゆっくりと言った。 「会うまでに、考えとくよ」  くす、と笑いながらオレをさらに抱き寄せて、頭にすりすりと頬を寄せる。 「オレが嫌な気持ちになるレベルですごいなら――凛太に撫でてもらおうかなぁ」 「……オレが瑛士さん、撫でるんですか?」 「そ。撫でてくれる?」 「――分かりました」  ふ、と笑ってしまいながら頷くと、瑛士さんは一拍置いてから。 「ならオレは、大丈夫」  楽しそうに言う瑛士さんに、なんだかもう――胸の奥が。  なんだか、すごくいっぱい。  そろそろと動いて、瑛士さんの背中に、びっとりしがみつくと、瑛士さんが、ふ、と笑う。  明日電話しなきゃって、思ってたから。  しなくていいって言ってもらえて、なんだかすごくホッとして、力が抜けた気がする。 「ありがとうございます」 「――うん」  さらさらと髪の毛に触れて、瑛士さんが笑う気配。  ……優しいなぁ。この人は。    布団の中、瑛士さんの体温が伝わってくる。「おやすみ」と囁かれて、もうずいぶん経った。はふ、とあくびが零れるのに、あとすこし、寝付けない。  そこでふと気付いた。瑛士さんの呼吸が、すごくゆっくりなことに。  ――寝た……?  そっとそっと顔を上げると、ほんとに眠ってるみたい。  ――すこしだけ口が開いてて、ちょっと無防備に見える。    可愛い。  ……良かった。ちゃんと眠れたんだ。  それが嬉しくて、胸の中、ふわふわと、あったかくなる。  社会的な立場も、年も……ていうか、本当に何もかも違うし。  ――瑛士さんに、お似合いな人は、きっと、他にもたくさんいる。  そう、思うんだけど。 「――」  すう、と安心したみたいに眠っている瑛士さんを見ていると。    オレ、ここにいても、いいのかなって。  すこし、思えて。  勝手に、口元が緩んだ。

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