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159.公表したこと

 お昼、竜が購買に行ったので先に学食に向かっていると、|安達《あだち》に会って、一緒にお昼を食べることになった。ご飯を買って、窓際の明るい席に座る。 「三上さ、Ωだったんだってね」 「あー……うん。まあ」 「まあオレ的には、どっちでもあんまり変わんないけど」  はは、と笑って食べ始めた安達に、オレも肩をすくめて笑い返す。 「まあでもβ仲間だと思ってたけど、違ったんだなーって感じ?」 「それはごめん」 「いや、いいよ。隠してたの理由も分かるし。それにしても、なんか、全然Ωっぽくないから、全然分かんなかった」    安達はβなので、フェロモンとかは全く関係ないし、そもそも分からないってのもあるとは思うけど。 「オレのフェロモン、少なくてさ。全然他人にわかんないって医師にも言われてるから」 「そうなんだ? あー、そうだよな、ヒートとかで休むとか、具合悪そう、とかもなかったもんな」 「だから、βとして偽れてたんだけど」 「なるほど。ああ、そういえば、なんかスゴいαと結婚するんだって?」  そんな風に言われて、箸で挟んでいた魚を、ぽろ、と落としてしまった。 「うん……ていうか、すごいって何のこと?」 「なんだっけ。怖いとか? ……あ、思い出した。 オーラがヤバイ人って言ってたような気がする」 「そんな噂?」 「うん。まあ噂も聞いたし……三上のゼミのαたちがヤバかったって騒いでるのも聞いたな。すっごいランクが高いαだって?」 「……うん。まあ、ランクはすごく高いよ。でも、全然怖くはないんだけど」  ……それどころか、誰よりもめちゃくちゃ優しいけどな。  瑛士さんの笑顔を思い出すと、なんだか心の奥がふわ、と浮かぶみたいな気持ちになるし。 「Ωだってばらして、困ったことない?」 「ん? ……ああ、困ったことかぁ」 「Ωが医学部にいるって、相当レアだよな。あんまり聞いたことない」 「うん。そうだねぇ……」  改めて言われると、たしかに、聞いたこと無いかも。  実家をどうしても継ぐ、とかならあるかもしれないのかな。いや、でも、医学部の大変な生活を、オメガの体で耐えられないかもってことな気がする。ほとんどないかな……。 「そもそも医者を目指すΩがいないじゃんか。完全にαの世界だもんな。βでもある程度実家に力がないと、厳しいし」 「うん。だね。それで安達とは話すようになったんだもんね」 「――三上は、Ωだったわけだけど」 「ごめんねって」 「いや、そうじゃなくてさ」  安達は苦笑して、少し黙った後、オレを見つめる。 「Ωだと余計きついだろって話。公表して、大丈夫だった?」 「――あーうん。それは、大丈夫、だったのかも」 「そうなんだ?」 「教授たちが、はっきりΩでも今までと変わらないって言ってくれたからかもしれないけど」 「そんなんでαたち、収まる?」  安達はちょっと不思議そう。 「あとは、さっきの、オレの婚約者がヤバいっていう噂が、効いてるのかもね」 「あ、なるほど、そっちならすげー分かるかも」  めちゃくちゃ頷いて、安達が笑ってる。 「αって所詮、階級社会の最たるもんだもんな。やばいαがバックにいる三上には、何もしないわけか」 「……そうなのかなーて思う」  多分竜もそのために瑛士さんを呼んで、瑛士さんもその意味を知って、わざわざ来てくれて、直接その場で皆の前に出てくれた。  ほんと。感謝しかない。  このまま頑張って医者になって、患者を診ながら、薬の開発に携われるようになったら良いんだけど。  でも、まあ――先は長いよな。  まずΩの薬の開発自体が活発じゃない。  大手が占めている市場は、良くも悪くも落ち着いてて新薬がなかなか開発されない。  研究には施設も要るしお金もかかるし。研究者もお金にならないから、そこに入っていかない。  オレが潜り込める隙間があるのか。潜り込めたとして、既存の副作用をなくしたりする、そういう研究をさせてもらえるのか。  変な話だけど、今のまま高額で売ってたって、Ωは買うんだ。  安くて良い薬を作ると言うことは、今までの高くて良くない薬は売れなくなる。それを大手が望まないからこそ、今のまま落ちついてるわけで。  そういうの、どこから崩していけばいいんだか、ほんと難しい。無力で悔しいな……。  昨日話題になっていた、新しい会社。  あそこが本当に良い会社なら、オレが治験に行って仲良くなっといて、とか思ったけど、オレのフェロモンは特殊すぎて治験には向かないし。   「まあでも、これからも頑張ろうな。今まで通りさ」 「うん、そだね。ありがと」  Ωでも――今までと変わらず、話してくれる人がいること。それが嬉しい。さっき教授たちにも言われたけど。  公表出来て、よかったんだと、思えてる。    

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