166 / 172
159.公表したこと
お昼、竜が購買に行ったので先に学食に向かっていると、|安達《あだち》に会って、一緒にお昼を食べることになった。ご飯を買って、窓際の明るい席に座る。
「三上さ、Ωだったんだってね」
「あー……うん。まあ」
「まあオレ的には、どっちでもあんまり変わんないけど」
はは、と笑って食べ始めた安達に、オレも肩をすくめて笑い返す。
「まあでもβ仲間だと思ってたけど、違ったんだなーって感じ?」
「それはごめん」
「いや、いいよ。隠してたの理由も分かるし。それにしても、なんか、全然Ωっぽくないから、全然分かんなかった」
安達はβなので、フェロモンとかは全く関係ないし、そもそも分からないってのもあるとは思うけど。
「オレのフェロモン、少なくてさ。全然他人にわかんないって医師にも言われてるから」
「そうなんだ? あー、そうだよな、ヒートとかで休むとか、具合悪そう、とかもなかったもんな」
「だから、βとして偽れてたんだけど」
「なるほど。ああ、そういえば、なんかスゴいαと結婚するんだって?」
そんな風に言われて、箸で挟んでいた魚を、ぽろ、と落としてしまった。
「うん……ていうか、すごいって何のこと?」
「なんだっけ。怖いとか? ……あ、思い出した。 オーラがヤバイ人って言ってたような気がする」
「そんな噂?」
「うん。まあ噂も聞いたし……三上のゼミのαたちがヤバかったって騒いでるのも聞いたな。すっごいランクが高いαだって?」
「……うん。まあ、ランクはすごく高いよ。でも、全然怖くはないんだけど」
……それどころか、誰よりもめちゃくちゃ優しいけどな。
瑛士さんの笑顔を思い出すと、なんだか心の奥がふわ、と浮かぶみたいな気持ちになるし。
「Ωだってばらして、困ったことない?」
「ん? ……ああ、困ったことかぁ」
「Ωが医学部にいるって、相当レアだよな。あんまり聞いたことない」
「うん。そうだねぇ……」
改めて言われると、たしかに、聞いたこと無いかも。
実家をどうしても継ぐ、とかならあるかもしれないのかな。いや、でも、医学部の大変な生活を、オメガの体で耐えられないかもってことな気がする。ほとんどないかな……。
「そもそも医者を目指すΩがいないじゃんか。完全にαの世界だもんな。βでもある程度実家に力がないと、厳しいし」
「うん。だね。それで安達とは話すようになったんだもんね」
「――三上は、Ωだったわけだけど」
「ごめんねって」
「いや、そうじゃなくてさ」
安達は苦笑して、少し黙った後、オレを見つめる。
「Ωだと余計きついだろって話。公表して、大丈夫だった?」
「――あーうん。それは、大丈夫、だったのかも」
「そうなんだ?」
「教授たちが、はっきりΩでも今までと変わらないって言ってくれたからかもしれないけど」
「そんなんでαたち、収まる?」
安達はちょっと不思議そう。
「あとは、さっきの、オレの婚約者がヤバいっていう噂が、効いてるのかもね」
「あ、なるほど、そっちならすげー分かるかも」
めちゃくちゃ頷いて、安達が笑ってる。
「αって所詮、階級社会の最たるもんだもんな。やばいαがバックにいる三上には、何もしないわけか」
「……そうなのかなーて思う」
多分竜もそのために瑛士さんを呼んで、瑛士さんもその意味を知って、わざわざ来てくれて、直接その場で皆の前に出てくれた。
ほんと。感謝しかない。
このまま頑張って医者になって、患者を診ながら、薬の開発に携われるようになったら良いんだけど。
でも、まあ――先は長いよな。
まずΩの薬の開発自体が活発じゃない。
大手が占めている市場は、良くも悪くも落ち着いてて新薬がなかなか開発されない。
研究には施設も要るしお金もかかるし。研究者もお金にならないから、そこに入っていかない。
オレが潜り込める隙間があるのか。潜り込めたとして、既存の副作用をなくしたりする、そういう研究をさせてもらえるのか。
変な話だけど、今のまま高額で売ってたって、Ωは買うんだ。
安くて良い薬を作ると言うことは、今までの高くて良くない薬は売れなくなる。それを大手が望まないからこそ、今のまま落ちついてるわけで。
そういうの、どこから崩していけばいいんだか、ほんと難しい。無力で悔しいな……。
昨日話題になっていた、新しい会社。
あそこが本当に良い会社なら、オレが治験に行って仲良くなっといて、とか思ったけど、オレのフェロモンは特殊すぎて治験には向かないし。
「まあでも、これからも頑張ろうな。今まで通りさ」
「うん、そだね。ありがと」
Ωでも――今までと変わらず、話してくれる人がいること。それが嬉しい。さっき教授たちにも言われたけど。
公表出来て、よかったんだと、思えてる。
ともだちにシェアしよう!

